劇場公開日 2021年4月9日

21ブリッジ : 特集

2021年3月15日更新

C・ボーズマン“映画人生の最高到達地点”を大画面で
彼は何を表現しようとしたのか 思いをこめた渾身作

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2020年8月28日。チャドウィック・ボーズマンが死去した。43歳だった。ボーズマンが製作・主演を担った「21ブリッジ」が、21年4月9日に日本公開を迎える。ニューヨーク・マンハッタン島を舞台に、強い信念を持つ刑事が“警察官が8人殺害された”事件に挑む姿を描いた、クライムアクションだ。

製作・主演。ボーズマンの思い入れの深さは尋常ではない。俳優としてだけでなく、“映画製作者”として立ち上げた本作で、果たして何を表現しようとしていたのか――。

ひとつ言えるのは、“彼の映画人生における最高到達点”だということ。より多くの人に、大画面で目撃してもらいたいと考えている。この特集では、ボーズマンのこれまでと、「21ブリッジ」の物語や見どころ、そして編集部による鑑賞レビューを記述していく。


【予告編】マンハッタン島、完全封鎖。

チャドウィック・ボーズマンよ、永遠に
信念を貫き、不条理と向き合った不撓不屈の生涯

NYプレミアでの様子
NYプレミアでの様子

○“これまで”を振り返る

1976年11月29日、米サウスカロライナ州で、看護師の母親と会社経営者の父親の間に生まれた。幼少期から文武両道で、特にディスカッションやスピーチのセンスが際立っていたという。

その名を世界に知らしめたのは、黒人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンに扮した「42 世界を変えた男」(2013)。そして「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」(14)ではソウルの帝王と称された歌手ジェームス・ブラウン、「マーシャル 法廷を変えた男」(16)では黒人初の連邦最高裁判事となったサーグッド・マーシャルを熱演した。3年の間に、アメリカにおける黒人の歴史を変えた人物を、次々とその身で体現。彼の崇高な精神が歴史上の偉人の魂と結びつき、これ以上ないはまり役を世に放った。

さらに「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」(16)では、マーベル・シネマティック・ユニバース初の黒人ヒーローとして登場。単独映画「ブラックパンサー」(18)は歴史的大ヒットを記録し、アメコミヒーロー映画としては異例のアカデミー賞の作品賞ノミネートを果たした。

NYプレミアでの様子
NYプレミアでの様子

20年8月28日、人気絶頂のさなか、大腸がんのため43歳の若さで死去。その4年前の16年には、ステージ3の大腸がんを宣告されていたという。病魔に侵されていた事実を知っていたのはごくわずかで、共演者にも告げていなかった。だからこそ、死去の報には誰もが耳を疑った。

傑出した演技力でも知られており、Netflixオリジナル映画「マ・レイニーのブラックボトム」では第78回ゴールデングローブ賞で最優秀主演男優賞を受賞。第93回アカデミー賞(現地時間4月25日に授賞式)でも、主演男優賞の受賞が期待されている。

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○生前のボーズマンは語る「本物の刑事をリアルに表現したかった」

演技力だけでなく、そのフェアな人柄は多くのファン、そして映画人の尊敬を集めた。自らも闘病中だった「ブラックパンサー」撮影中、末期がんの少年2人と連絡を取り続け、励まし合っていたという有名なエピソードが残っている。

本作「21ブリッジ」撮影時、映画ジャーナリストの猿渡由紀氏が、生前のボーズマンにインタビューしている。彼の紳士的で誠実な内面がよくわかる発言の一部を、ここで紹介しよう。

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――刑事役を演じたことについて

ボーズマン「僕は今作で、本物の刑事をリアルに表現したかった。僕はこれまで、警察にあまり好感を持ってこなかったので、人と人として、刑事にアプローチしたいと思ったんだ。そして実際、この映画で知り合いになった刑事と仲良くなったんだよ。とくに、僕に銃のトレーニングをしてくれた人。彼は僕の誕生日パーティにも来てくれた」


「21ブリッジ」は彼の“映画人生の最高到達地点”
「アベンジャーズ」ルッソ兄弟らも参加、究極の布陣

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物語:マンハッタン島で強盗事件が発生し、銃撃戦の末に警察官8人が殺害された。捜査に乗り出したのは、警察官の父を殺された過去を持つアンドレ刑事(ボーズマン)だった。

マンハッタンを全面封鎖して犯人の行方を追う。しかし事件の真相に迫るうち、重要参考人を警官が即座に射殺するなど、不可解な事態に遭遇する。孤立無援となったアンドレ刑事は、事件の裏に潜むニューヨークの闇に立ち向かうが……。


○最高の映画を作る 製作・主演 文字通り魂こめた一作

製作・主演を務めた本作で、ボーズマンは自身の“映画人生における最高到達点”を見せつけた。……いささか具体性にかけた記述である点を、ご容赦いただきたい。言葉では名状しがたい彼の“魂”が、この作品にはこめられているからだ。

最高の映画を作る――。現場ではそんな合言葉があったに違いない。撮影は18年だったため、ボーズマンは化学療法に伴う苦痛に耐えながら、重厚なセリフ回しや迫力のアクションに挑んでいたことになる。

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ボーズマンが演じたアンドレは、他人に左右されず、己の良心のみに従い、常に“正しいこと”のために行動する実直な刑事だ。ジャッキー・ロビンソンしかり、ティ・チャラしかり、彼がこうした役どころを演じるのは、決して偶然ではない。

確かに、その体は少々、痩せているようにも思える。しかし、彼の瞳の輝きは、奥に燃える炎のきらめきは、一度見れば忘れることができない。驚きに満ちた物語展開や、興奮を禁じえないアクションの質にも目を見張るはずだ。

“俳優”としての到達点は、おそらく先述の「マ・レイニーのブラックボトム」であろう。しかし製作として企画を立ち上げた本作は、“映画人としての到達点”だと言える。ぜひとも映画館の大画面で、ボーズマンの雄姿をその目に焼き付けてもらいたい。

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○ルッソ兄弟、「ゲーム・オブ・スローンズ」監督らが思いに共鳴

ボーズマンの魂に共鳴し、あまりに豪華なスタッフたちが集った。彼とともに製作に名を連ねたのは、「アベンジャーズ」シリーズで運命をともにしたアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ。そして監督は、世界的大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」を手掛けてきたブライアン・カークだ。

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そしてキャストも素晴らしい。「セッション」の鬼教師役でオスカーに輝いたJ・K・シモンズが、主人公を古くから知るベテラン警官を演じる。さらに「フォックスキャッチャー」「アメリカン・スナイパー」などのシエナ・ミラー、「ビール・ストリートの恋人たち」で脚光を浴びたステファン・ジェームズの存在感も光る。魂の一作には、究極とも言える布陣がふさわしいのだ。


【編集部レビュー】その生き様を目に焼き付けろ
ツイストに次ぐツイスト、渾身の99分を映画館で感じて

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最後に、実際に鑑賞した感想を記し、この特集を締めくくろう。

まず印象深いのは、マンハッタン島に潜む犯人を逃さないため、アンドレ刑事が考案する作戦。これがド肝を抜くスケールでとてつもない。橋で検問するか? FBIに協力を要請するか? いいや、アンドレ刑事はそんなチマチマした正攻法は選ばない。

ではどうするか? 答えは簡単。“マンハッタン島すべてを封鎖”してしまうのだ。島を出る21の橋、3つの川、4つのトンネル、そして鉄道網のすべてをロックダウン。犯人を物理的に脱出不可能にしたうえで、島全域におびただしい数の警官を放つ……フジテレビ系「逃走中」だったらプレイヤーがブチギレそうなパワープレーだが、あまりに豪快な展開ゆえに非常に爽快感があった。

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そして、本作はただのポリスアクションではないから面白い。主人公アンドレ刑事は、中盤あたりで犯人逮捕に最接近する。しかしそれは“ゴール”ではなく、“スタートライン”。間一髪で逃れた犯人を追いながら、アンドレ刑事はニューヨークと警察の“闇”へと足を踏み入れていく。

やがて、物語開始時には想像もしなかった不穏な空気が画面を覆い尽くす。耳の裏がゾワゾワするようなスリルがたまらない。およそ99分と、とても見やすい尺だが、その密度はすさまじいものがある。ツイストに次ぐツイスト、緊迫がさらなる緊迫を呼ぶ展開は、2、3本の映画を目撃したかのようなずっしりとした見ごたえを与えてくれる。

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ミステリーとしての引っ張り方も良く、迫真のアクションとのコントラストは芸術的なバランスである。過度な説明は皆無で、登場人物の行動と断片的なセリフを軸に物語はずんずんと進んでいくから、画面には疾走感がみなぎる。

製作陣はわかりやすさを言い訳にした“うかつな説明”を捨て去り、観客の理解力を信じ“本気のクライムアクション”を志向した。この英断が、得も言われぬ知的興奮をもたらしたといえる。

映画ファンであればあるほど、見て損することはないだろう。ボーズマンが画面の端々にこめた魂を、ぜひとも全身で感じてほしいと思う。(映画.com編集部 尾崎秋彦)

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