「「意見が違う人と話したい」」愛国者に気をつけろ!鈴木邦男 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「意見が違う人と話したい」
鈴木邦男という人物の、“応援ビデオ”と言っていいと思う。
もう少し言えば、“リベラル派”にとって好ましい姿や発言を切り取った映像集かもしれない。
鈴木の思想を、いくつかワンフレーズで示すのみで掘り下げることはせず、批判的にとらえる視点も皆無だった。
テーマは主に2つか。
(a) かつての“武闘派”のスターが、「不寛容や独善に対する、不寛容」という、“民族派”らしからぬスタンスを持つに至った理由、および、現在の活動の実態。
(b) 好々爺とさえ言える、現在の人柄。なぜ多くの人と関わり、特に女性にモテるのか?
ずっと同じことを繰り返し訴えている印象だが、様々に対象や事例が変わるので、冗長には感じなかった。
この作品には、いくつか不満がある。
まず、ほぼインタビューだけで、ダラダラと構成されていることだ。
関連する歴史は、すべて周知のこととして扱われ、客観性な解説やデータはなく、次から次へとエピソードや登場人物が現れる。
また、映画の尺の問題があるとはいえ、“現在の鈴木”を取り上げすぎである。
“オウム関係者”との交流(「麻原三女」、「上祐史浩」、「村井秀夫刺殺犯」)。“左翼”過激派(「東アジア反日武装戦線」や「日本赤軍」)への思い。
鈴木自身が興味をもってコンタクトを取ろうとするのは、このような振り切れた人々であり、“中庸”な存在には興味がないらしい。
そして、“鈴木邦男ガールズ”や鈴木を愛する人々の姿。彼らはみな、鈴木から“正しさ”を押しつけられたことはないと証言する。
しかしその一方で、過去の“右翼”活動は断片的に流されるだけで、鈴木という人の全体像は見えてこない。
「大日本愛国党」。「生長の家」学生運動。
「三島割腹事件」と「森田必勝」への痛切な思いについては、少し尺を割いている。
「一水会」の結成、“新右翼”の「野村秋介」。「赤報隊」の件は、妙に歯切れが悪い。
これでは何のための「鈴木邦男」のドキュメンタリーなのか?
特に、自分の“正しさ”を信じていた鈴木が、そのスタンスを大きく転回させた“失敗”とは何かが、観客には理解しづらい。
この点は、自分も映画では理解できず、上映後の質疑応答を聞いて分かったくらいだ。
帰宅後、「日本会議の研究」(扶桑社)の最終章を読むと載っていた。
鈴木は上映後のトークで否定しなかったので、上記の本は少なくとも鈴木サイドからは真実のようだ。
端的に言えば、内部抗争だ。「同じ考え方をもってたって、簡単に人間は裏切られる」。「同じ人たちを集めて運動するなんて、もうやりたくない」。
貴重な作品だとは思う。
しかし、結局のところ本作品は、「右がダメだと思った時、左翼や宗教の人たちがどういうふうに考えているのか興味が出てきた」と語る、作り手にとって“受入れ可能”な部分を取り上げただけという印象だ。