劇場公開日 2021年10月30日

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「内戦が続いたコロンビアで実現した野心作の光と影」MONOS 猿と呼ばれし者たち 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0内戦が続いたコロンビアで実現した野心作の光と影

2021年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

興奮

本作については当サイトの新作評論に寄稿したので、ここでは補完的な視点で書いてみたい。

まず目を引くのは、雲海が眼下に広がりセメント鉱山の廃墟が残る高地や、うっそうとしたジャングルと滝や濁流の川など、手つかずの自然が残ったロケーションだ。特にジャングルや川の付近は、最近までゲリラ組織と民兵集団の戦闘があったせいで一般の人々は近づけず、おかげで開発から逃れていたのだとか。

主要キャストも、博士役のジュリアンヌ・ニコルソンやビッグフット役のモイセス・アリアスを除き、ほぼ全員が演技未経験だという。メッセンジャー役の男性は実際に反政府ゲリラ組織FARCで部隊を率いたそうで、小人症で筋肉質の指導教官というキャラクターの異様なリアリティも納得だ。

ストーリーにはとても引き込まれたのだが、モノスの数人が土色に濁った急流を泳ぐ(というより、溺れないよう必死に浮かんでいる状態に近い)シーンでは、よくこんな撮影ができたなと驚く一方、発展途上国の貧しい若者たちを先進国の娯楽である映画で危険な目に遭わせて“搾取”しているという側面はなかっただろうかという懸念も残った(本作はコロンビアをはじめ欧州と南米の計8カ国の共同製作)。プレス資料でも、ジャングルでの撮影の準備中に斜面を巨木が転がり落ちてきて、キャストにぶつかる寸前で止まったという話を監督が明かしている。荒々しい自然環境だからこそ迫力ある映像が撮れるというメリットはもちろん認めるが、組合やエージェントのしっかりした米国の撮影現場並みに、キャスト・スタッフたちの安全の確保と心身のケアがしっかり行われていただろうかと気になった。

高森 郁哉