「雄弁なカメラと鮮烈なオブジェクト」Away 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
雄弁なカメラと鮮烈なオブジェクト
3DCGののっぺりとした肌理にもかかわらず奥行きとテクスチャの感じられる作品だった。
ゲームのように壮麗な風景グラフィックもさることながら、カメラの有機的な動きが本作に躍動感を与えていたように思う。洞窟の斜面から黒い巨人を俯瞰するショット、森の上を飛翔する鳥群を上空からドリーで追跡するショット、少年の疾駆に息遣いを合わせるようフレームが不安定に揺れ動くショット。セリフを一切排した寡黙な物語はこうしたカメラの雄弁さによって補われており、いわゆるアンビエント映画のようなとっつきづらさは感じない。
少年、黄色い小鳥、黒い巨人を軸とした物語は、三者の出自がほとんど明示されていないがゆえに如何様にも寓話を読み取ることができる。誰もが容易に入り込むことができるという点では確かに本作はロールプレイングゲーム的といえるのかもしれない。にもかかわらず最小公倍数的な薄っぺらさを感じないのは、登場するオブジェクトのビジュアルにハッとするような力強さがあるからだ。黒い巨人も青空を反射する湖も竹林の猫の集落も、とにかく画として鮮烈だ。一度見たら忘れられない。その力強さがある意味漠然とした物語にくっきりとした輪郭線を与えている。
本作はCG撮影から編集から音楽から監督まですべての工程をギンツ・ジルバロディスが担っている。堀貴秀『JUNK HEAD』と同じくインディペンデント映画の極致的なアニメーション作品だといえる。熱意さえあれば本当にたった一人で製作ができてしまうというのはアニメーションという媒体の強みかもしれない。何はともあれラトビアなる映画史的未開拓地にヒョイと現れた本作を逃さず捕らえて国内上映にまで辿り着かせた配給担当の審美眼と仕事ぶりに惜しみない拍手を送りたい。