劇場公開日 2019年12月13日

「正反対な2人の対話劇」2人のローマ教皇 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5正反対な2人の対話劇

2019年12月20日
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楽しい

知的

前教皇ベネディクト16世は、度重なるバチカンの不祥事などにより、異例の生前退位を表明、名誉教皇となった。その後任が現フランシスコ教皇。現在バチカンには2人の教皇が存在する。
これは、実際にあった2人の教皇の会談に構想を得た物語だという。わざわざ冒頭で前置きされるあたり、流石に題材が題材だからか。片や現職でいらっしゃるし、念頭に置いた方がいいのは確かだろう。

ヨハネ・パウロ2世の逝去に伴い、コンクラーベが開催され、保守派のベネディクト16世が就任する。
数年後、改革派のホルヘ枢機卿(後のフランシスコ教皇)は、辞職の許しを得る為に教皇を訪ねるが、世間に現体制への批判と受け取られると、教皇は許可しない。性格も持論も正反対の2人の主張は折り合う事なく、1度は決裂するが、共に過ごし、語り合う内、互いへの理解を深め、やがて心の重荷を懺悔し合う。

2人のベテラン俳優が、清廉たる聖職者でありながら、一方で悲しみや楽しみや失意に揺れ動く人間味溢れる2人の教皇を、圧巻の存在感と深みをもって演じている。
聖職者2人の会話劇とあって、含蓄ある言葉も多く、台詞回しもよく練られている。
数日間の対談というごく狭く短い間での出来事を軸に、全世界的な一大事たる教皇選出から次の選出まで、またホルヘの過去の回想も交えて、対立からの対話、友好へ、宗教とは、救済とは、人間とは…。壮大なスケールの広がりを見せていく。
精巧美麗なバチカン建築や衣装、美術の数々も見応えがある。

カトリック体制の最前線にあってさえ、時に信仰に迷い、後悔を抱え、取るべき道を模索する姿は、キリスト教に限らず、全ての宗教者、指導者、それらを越えた一人の人間としても、激しく共感出来るだろう。
激動し続ける世界、人心、情勢。誤りを犯さず、迷わない者などいるだろうか。「人は神にはなれない。神の中にある人でしかない」
12億の信者を背負い、政治的意図に振り回され、常に期待と批判に晒され、選択言動全てが全世界の注目を浴びる立場の重圧はいかばかりか。まさに「殉教者になるようなもの」だ。

「妥協したのか」「妥協ではない。私は変わったのです」
エンドロールの背後では、雷鳴が轟き、次第に雨音が激しさを増す。やがて音は止み、鳥達の歌声が聞こえ出す。
「変わらないものなどない」

小難しい人生哲学や宗教観は置いておいて、エンタメ作品として見ても十分楽しい。
生真面目で厳格でユーモアと人付き合いの苦手な学者肌と、交流好きで気さくでウイットに富んだ庶民派。キャラクターを対称的に設定し、2人が認め合い、距離を縮めていく技法は、友情ものの王道。
2人の聖職者が並んでデリバリーのピザを頬張り、サッカーの試合をTV観戦しながら、互いの祖国を応援して一喜一憂するなど、ニヤリとしてしまう要素も多くある。

英語、ラテン語、イタリア語、スペイン語…。作品内では多くの言語が交錯するのだが、英語時には日本語字幕が画面の下部に横書きで、それ以外の言語の時には、下部に英語、日本語字幕は右手に縦書き、時系列や舞台の説明は左に…と、字幕があちこちに行ったり来たりするので、何処に注目すればいいのか、ちょっと見辛かった。
Netflix作品という事で、元々大スクリーンでの鑑賞を想定していないのかも知れないが…。

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しずる