「気付くまでの苦い想い」劇場 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
気付くまでの苦い想い
Amazon Prime Videoで鑑賞。
原作は未読です。
夢を追い掛けるも鬱屈している男と、そんな彼を天使のように支えようとする女の織り成す、秀逸な若者のドラマでした。
ふたりの恋愛の行く末に待ち受けているものは、果たして悲しい結末なのかもしれないなと思いながら観ていました。
永田は完璧なヒモでした。演劇の脚本を書こうにも上手くいかない。沙希のアパートに転がり込んで、夕方に起きて言い訳兼ねて散歩して、家賃をいくらか払うわけでない。それでも沙希は彼を信じようとする。全てを肯定しようとする。
何故ここまで永田のことを支えられるのか。普通ならばとっくの昔に愛想尽かされそうなものなのに。否、そのとっくの昔に、ふたりの関係の破綻が始まっていたのかもしれません。お互いに無理をして傷つけて傷つけられて、やがて…
失ってみて初めて気付くことがある。取り返しがつかなくなってからようやく、そこにあったものの意味を思い知ることがある。気付くまでに味わう苦さはきっと苦しいものだけれど、素直に己と向き合って周囲にも向き合えた時、悲しみを糧にすることが可能になって、新しい道が拓けるのかもしれない。
それが永田にとってはラストの演劇へと結びついたんだろうなと思いました。ようやく望んでいた成功が転がり込んで来たように見受けられましたが、彼のそばに沙希はおらず、彼女は客席で泣きながら只管「ごめんね」を繰り返す。
そんな沙希に猿の仮面を着けて滑稽な踊りを見せる永田。終幕後他の客が捌けた後、余韻を噛み締めるようにゆっくり立ち上がり去って行った沙希の姿が印象に残りました。
新型コロナウイルス感染拡大を受け、公開延期となっていた本作。新たな公開日当日にアマプラで見放題配信も開始すると云う異例の措置が執られました。新作映画をいきなりストリーミング配信することの是非について関係者の間でかなりの議論が交わされたとのことですが、未曾有の情勢下だからこそ、多くの人に作品と出合ってもらえるならばとの想いでこのような機会を設けて下さったこと、感謝の念に絶えません。
見放題配信になったからと云って、作品自体の価値が下がるわけでは無いし、現に劇場鑑賞後に配信で再度観る、またはその逆の現象も起きており、意外な相乗効果をもたらしているとのこと。全国18館と云う小規模公開ですが、殆どの回が満席に近い状態らしく、映画ファンとしては嬉しい限りでございます。新作映画の新しい提供の在り方を提示したと云う点で、本作は先駆的作品になり得るかもしれません。
[余談]
山﨑賢人の演技がべらぼうに良くなっていました。引き出した監督の手腕もすごいのでしょうが、彼にこんなポテンシャルが秘められていたとは。上から目線になって恐縮ですが、正直今までそんなに演技力のある俳優だと思っていませんでした。
マンガの実写版など多くの作品に出演していましたが、全部顔だけ(客寄せ目当て)のキャスティングじゃないかと侮っておりました。本当に申し訳ありませんでした。
※修正(2024/01/07)