「切なくも丁寧に丁寧に描かれた又吉純文学が心に染み入る作品です。」劇場 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
切なくも丁寧に丁寧に描かれた又吉純文学が心に染み入る作品です。
コロナの影響前から観たいなぁと思っていた作品で、上映が延期されてからもずっと気になってましたが、公開初日にAmazonプライムでの配信もされる事から上映館数が大幅に激減し、それでも劇場で観たくて観賞しました。
で、感想はと言うと、良かった。
とても良かった。凄い良かった♪
これ、夢を追って東京に出てきた人、なんとなく挫折しそうになった人や演劇に傾倒していた人、若い頃に同棲をしていて別れた苦い経験のある人には物凄く共感出来るのではないでしょうか?
又吉直樹さん原作の2本目の映画化作品で、前作よりも文学的な要素は強いです。
前作の「火花」も面白かったんですが、断然こっちの方が好きです。
演劇に傾倒し、踠き苦しみ、他人を何処か見下した目で見ながら自身のアイデンティティーを辛うじて保っているが恋人の沙希にすら次第に劣等感を抱く永田と永田を献身的な程の無情の愛情を注ぐ沙希との淡くも儚く切ない関係。
何処か報われる事もなく、刹那の様な恋愛関係の一時が愛おしくて、そこを丁寧に描いています。
とにかく丁寧に描かれていて、永田の自信が損失していき沙希に甘えながらも距離感に翻弄されてしまう様々な葛藤、永田が大好きであるが、徐々に不安に苛まれ、永田を諦めきれず、心と体を病んでいく
。
たったそれだけと言えば、それだけの事を本当に丁寧に描かれているので、物凄く共感するんですよね。
山﨑賢人さんと松岡茉優さんが抜群に上手い。
山﨑賢人さんも松岡茉優さんのこの作品で一味も二味も剥けた感じがします。
松岡茉優さんが可愛らしいんですよね。
永田ことナガちゃんを真っ直ぐに信じていて愛している。
もうそれが健気で切ない。次第に病んでいくのを見てるのが居たたまれない。
でも、永田の気持ちも分かるんですよね。
自身が書いた脚本の芝居に沙希を出演させるんだけど、思ったよりも好評で比較される事や彼女の躍進にやっかみを感じる。
永田が沙希を愛していながらも葛藤したのは自身の劣等感に苛まれたから。
また、同世代で唸る様な芝居をしているライバル劇団に打ちのめされながらも、芝居に愛されない自分に踠き続ける。
またひねくれて自身を芝居に向き合わない事で最後の一撃をあえてスカしているのだって、現実と向き合う怖さから。
そんなのは逃げだと言うのは簡単で、自身が愛した物に真っ正面から向き合うのはやっぱり怖い。
そんなズルくて臆病で純粋な永田を山﨑賢人さんの熱演が胸にグッと来るんですよね。
「劣等感」と「後悔」がキーワードかと思いますが、これって青春時代の「純愛」なんですよね。
ラストは原作と違うんですが、これがまた良い。
映画は映画の良さがあって、映画らしくあって良いと思います。
所謂劇中劇になってた訳ですが、大好きな「蒲田行進曲」を思い出しました。
ラストの永田の一人芝居はグッと来て、最初から最後まで余韻に浸れます。
上映後に行定勲監督のトークショーがあり、そこで観客からの質問に答えると言う、なんともラッキーなのがありました。
気になったのは、当初の予定からコロナの影響で上映が延期になり、上映館がかなり少なくなり、公開初日からAmazonプライムで配信された事。
また原作での永田のイメージは個人的には山﨑賢人さんではちょっとイケメン過ぎて違うかなぁと思っていたんですが、観ていくうちに山﨑賢人さんのイメージでハマった事。
その辺りを行定監督が答えてくれた事で府に落ちたのと納得が出来て嬉しかったです。
コロナの影響でいろんな事が予定からズレてしまったのは全世界の人全てかと思います。
そんな事があるからこそ、この作品がなんか響くんですよね。
「一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう」
人生にはやり直しが出来る事と出来ない事がある。
そんなやり直しが出来ないけど、そんな体験が今となっては切なくて愛おしい。
それを観ていても切に感じさせてくれる作品です。
行定監督も言ってましたが、出来れば劇場で観賞して、その世界観に浸って欲しいと思います。
とっても良い作品なので、興味があれば是非是非。
お勧めです♪