「一番安全な場所」劇場 zさんの映画レビュー(感想・評価)
一番安全な場所
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最初のうちは笑って観てられる。
「この男クズだな」「この女バカだな」「こういう口先だけのやついるよね」「それに騙されるやついるよね」と。
純粋でありすぎるために変われずにいた男と、純粋であるが故に変わらずにいられなかった女がすれ違うのは必定で、そのことに気づけなかった永田を、気づいてないフリをしていた永田を沙希は待ち続けた。
待ち続ける間に彼女は少しずつ大人になっていく。
最初の頃は頻繁に前髪を直すクセがあった。それがいつの頃からか無くなって、時の流れと少女のままではいられない沙希をそこに感じて苦しくなった。
下北沢の小さなアパートの一室、二人だけの小さな劇場で、永田は初めて素直に言葉を紡いだ。一番安全な場所、一番優しい人の前ですら自分を演じてきた男が、最後の最後に演劇という呪縛の中で素直な言葉を吐く。
永田はいつまでも演劇という夢を見続ける。
演劇で出来ることは現実でも出来る。
現実に旅立ってしまった沙希を迎えに行くには、演劇という夢を現実にするしかなかった。
夢なんてものは叶わないことの方が多いのだと思う。
それでもどうか、夢の世界でもがく彼を遠くからでも見守っていてほしいと願わずにはいられない。
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