「「舞台」が好き「役者」が好き「リアリティー」が好き等、気になる要素があれば是非見てみてほしい作品」劇場 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)
「舞台」が好き「役者」が好き「リアリティー」が好き等、気になる要素があれば是非見てみてほしい作品
当初は、それなりの規模で劇場公開されるはずだった作品ですが、新型コロナウイルスの影響で、「劇場」というタイトルなのに、ほんの一部の「劇場」でしか見られなくなってしまいました。これも、いつか歴史的な1ページになるのでしょう。
とは言え、本作が万人受けするのか、というと、そういうわけでもないのかもしれません。
理由は、ベースが主人公の山崎賢人が扮する永田と、ヒロイン役の松岡茉優が扮する沙希の2人の物語、ということがあると思います。
もちろん本格的な「映画」なのですが、「舞台」に近い構造を持っている作品のようにも感じました。
そのため、2人に入り込める意味では他の作品より効果的に仕上がっています。
演劇に心血を注ぐ、どんよりとした天才肌の劇作家兼演出家を山崎賢人が人生初のヒゲを生やして臨んでいたり、そんな「成功」という夢を叶えようとする彼を健気に支える難役に松岡茉優が臨んでいたりと、これまでの、どの作品とも違った2人を見ることができます。
「夢」と「現実」の狭間で、もがき続ける2人の7年間は真に迫るものがあります。
2人の出会いがユニークである一方で、その後の「作家あるある」なディープな描写は、それを体験している行定勲監督だからこそ描けるわけで、監督自身が映像化を熱望したのも理解できます。
本作は、2019年の6月から7月にかけて撮影されたようですが、舞台となる下北沢の小劇場は常に使われていて借りることができず、結局スタジオに小劇場を作ったそうです。
それもあってか、ラストの仕掛けは、私は「映画」と「舞台」が見事に融合した凄いものになったと思っています。
7年間を凝縮した山崎賢人と松岡茉優の名演技と、「舞台」にも力を入れている行定勲監督の演出によって、「劇場」というタイトルに相応しい新しい映画が生まれたような瞬間を体験できました。