「全身で日本を浴びた」犬王 せつこんさんの映画レビュー(感想・評価)
全身で日本を浴びた
目の見えない琵琶法師と猿楽の家に生まれた異形の子・犬王が出会い、そのパフォーマンスで多くの人を魅了していく話。
「歴史は勝者のもの」というように今に残るものは全て勝ち残ったもの、それはエンターテインメントの世界も同じではないか?という視点がまさに負ける側の物語「平家物語」と重なる。
そしてこれは絶対たまたまだけど、同日公開の『トップガン』はTheアメリカ映画らしい軍の精鋭たちが集まる勝者の物語で話も完全に陽だった一方で、『犬王』は負けに美学を感じる日本ならではの映画。この2つが同じタイミングなのやけに納得してしまった(もっと言えば日本は敗戦国だし笑)。
この映画の大半が犬王と琵琶法師のパフォーマンスで占めていて、それが湯浅監督らしさをとってもとっても味わえるし、2人のパフォーマンスが普通に現代のライブなので新感覚和製アニメライブを見に行った感じ。だからといって、ストーリーが薄い訳ではなく短い時間内にストーリーをまとめて、かつキャラに多くを語らせない、でもちゃんと深みのある話、になってるのはさすが脚本の野木さん。
個人的にアニメ表現で良いなと思ったのは、犬王のライブ、アニメだからといって絶対にありえない舞台演出を描かないのが良かった。犬王は絶対命綱を付けてるし、水の上を舞ってるように見えるのもちゃんと下に立てる床が水に埋まってるから、"手"の演出もどうやって動かしてるか容易にわかる。そこにアニメを使うのではなく、犬王と犬王のライブの美しさを誇張するためにアニメ表現を使ってるのが、アニメの誇張表現にウッてなる人間なので良かった。
最後に、日が暮れていくにつれ空の色が絶妙に変わっていくシーンの色使いがすごく繊細で綺麗で、色々奇抜なシーンはあったけどそこにいちばん感動した(笑)