「繊細で、美しい何度も見返したくなる傑作」燃ゆる女の肖像 moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
繊細で、美しい何度も見返したくなる傑作
自分はどちらかというと、アメリカ映画の文法に親しんで映画を見てきたのだけども、ヨーロッパ映画の必要最小限の絵だけで語るべき物語が巧みに構成されているような「粋」な作品を見ると、「いやー、これには勝てない。巧い。」と参ってしまう事がある。ベルトルッチの「シャンドライの恋」、ダルデンヌ兄弟の「ロゼッタ」や「自転車と少年」、そしてヨーロッパ映画ではないがその文法上にあるイラン映画「別離」。そういった作品に出会える事は映画ファンとしてこの上ない喜びなのだけど、見つけようとして見つけられるようなものではないし、いつ出会えるのかはわからない。そして、ついにまた、新たな名作に出会う事が出来た。
「燃ゆる女の肖像」は、静かに淡々とただただ美しい画面が次から次に映し出され物語が紡ぎ出される。二人の女優の凛とした存在感と美しさに見とれてしまう。画家である主人公の「絵を描くために相手を観察する」という行為が観客がカメラを通して人物をじっと見つめるという行為と重なり、映画的快楽となる。そして女性同士の恋愛が受け入れられなかった時代の社会的抑圧がもたらす緊張感が、二人の関係のエロティシズム、愛の輝きをより浮かび上がらせる。その愛のあり方は、最近マルセルカルネの古典的名作「天井桟敷の人々」を見たばかりなのだけど、そういったフランス映画の伝統にもつながるような実は普遍的な愛の姿でもあると思う。
演出面も、女性の姿が幻想として見える場面での(おそらく)液晶スクリーンを使った独特な撮影や、焚火の場面でのクラッシックではない現代音楽的なコーラス、その焚火の場面の直後のユニークなジャンプカット等、さりげないながら驚きがあり素晴らしい。もちろんその中で一番印象的なのは焚火のあのシーンと〇〇〇〇の物語とつながるラストだと思うが、それだけではなく、絵画的、象徴的な映像が巧みに散りばめられている。例えば、侍女の花の刺繍だが、最後の場面では、花瓶に生けていた本物の花の方は枯れてしまっていたが、刺繍は完成する。それは「私の今の姿を記憶の中で覚えていてほしい」と願う主人公の思いとも重なっているし、最後なぜ主人公が思いを寄せる女性に再開した時に、本物ではなく絵の中の彼女としか視線を合わせることが出来ないのかという事とも、響き合っている。
簡単に語りつくせるような作品ではないが、とにかく、これからも何度も見て物語と絵の美しさを味わいたくなるような素晴らしい作品だった。