「一瞬一秒、息も出来ぬ圧倒的な美しさ」燃ゆる女の肖像 Pegasusさんの映画レビュー(感想・評価)
一瞬一秒、息も出来ぬ圧倒的な美しさ
「ため息も出る美しさ」という表現があるが、この作品はため息すら許さない美しさ。
・2人の気まずい沈黙の空気から手の届かない官能的な空気感。
・登場人物を観察するかのような長回しカメラワーク。
・島の風景とその空間の撮り方。
・波の音、民族音楽、オーケストラ(ヴィヴァルディ)など映画館の音響を引き出すサラウンド。
その全てが研磨かれた圧倒的な美しさ。
この映画はとても淡々な展開し、とてもあっさりと幕を閉じる。
観客側としてはこの映画が創り出す「手の届かぬ儚さ」という美しさにもっと浸っていたかったのだが、とてもあっさりと終わってしまうのだ。
展開だってそう。
全てはこのシーンの為に!という普通ならベタ演出で観客を泣かせるような大切なシーンもなんの飾っけもなく淡々としている。泣かせる気もない。
しかし、そこにこの作品ならではの「美しさ」がある。
暗闇の劇場の大スクリーンで映画を観るという行為に付きまとう虚しげな感情。
ーすぐそこにあるのに手が届かない
この悶絶にも似た感情を観客に爆発させる美しさと官能。
そして、追い討ちをかけるのがこの「あっさりと終わる」だ。
『バードマン 或いは…(略)』でも表現されていたあくまでも日常の延長線上にあるストーリーで現実味が増すし、感情移入もしやすい。
この映画鑑賞の副産物とも言える感情を引き出すように創られた繊細で綿密な脚本でした。
カンヌ国際映画祭脚本賞も納得。
最初は「燃ゆる女の肖像の美しさに萌えた!」みたいな感想を書こうとしたけど、正直な感覚とは違ったのでやめた。
萌えなかったし。でもこの映画を生み出した監督の才能に対する嫉妬心は燃え上がりました。
ああ…
この映画はこれからもっと観ていきたい。(見事、作品の罠にハマってる)