「見ごたえのあるバイオレンス映画」バクラウ 地図から消された村 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
見ごたえのあるバイオレンス映画
伏線はそこかしこに潜んでいる。村へ至る一本道の途中にある監視塔みたいな小屋には人が詰めていて、村に入る人がいることを無線で知らせる。南米の名もなき村にどうしてそんな歩哨みたいな設備が必要なのか。村に戻ってきた女が口に入れられる薬は何なのか。村人たちが何度も口にする博物館には一体何があるのか。何故村人全員で殺し屋の映画を観ているのか。市長はどうして避けられているのか。
最後の最後に政治ぐるみの恐るべき観光商売が明らかになるが、それまでの村人たちは何の商売で生きているのか、売春婦と医者以外はよく分からない。セックスシーンが騎乗位ばかりなのは何か意味があるのだろうか。
序盤は不穏な空気が流れて、村人たちと不安を共有し、中盤は狂気の遊びをする連中の凶暴さと愚劣さを実感し、終盤は村人たちの真の姿を見る。よくできた構成で、容赦ない殺戮シーンに心を顫えさせられる。
登場人物からナチという台詞が出るシーンがあり、国家主義者同士のマウントの取り合いが演じられる。このあたりは個人主義的な集まりの中でも出自や母国のプライドを捨てきれない精神性の低さがある。一方の村人たちは政治よりも相互的な共同体としての村に重きを置いていて、村の歴史で培われたポテンシャルが終盤に発揮される。見ごたえのあるバイオレンス映画だと言っていい。
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