「オゾンが本年中の日本公開にこだわった理由は。」グレース・オブ・ゴッド 告発の時 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
オゾンが本年中の日本公開にこだわった理由は。
30年前、自らに性的虐待を行った神父が今も子供たちに接していることを知った被害者が、教会側に対応してもらえず、刑事事件として告発することを決意する。そこから、同じ被害者たちの証言を集めていく過程で浮かび上がるのは、少年にとって信頼する相手から加えられた虐待の後遺症が、長い時を経てもなお、心の傷として深く残っていること。しかし、人間の本能を独自の生々しいタッチで掘り下げることを信条としている監督のフランソワ・オゾンは、今回、驚くほどオーソドックスな形で事実を積み上げていく。観客の想像力を掻き立てるようなスリリングな演出ではなく、愚直なくらい、実際に起きた事件の経緯とその周辺を詳細に伝えるのだ。それは恐らく、映画が描く"プレナ神父事件”が、今まさに係争中だからなのだろう。過去に起きた事件の検証ではなく、現在進行形の裁判をリアルタイムでバックアップする。そうすることで移ろいがちな人々の目を、聖職者と、そして、宗教の矛盾に向けさせようとした本作は、オーソドックスだが挑戦的。オゾンが本年中の日本公開に強くこだわった理由はそこにある。
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