「煩悩との葛藤」360 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
煩悩との葛藤
冒頭からネット売春クラブの新人のプロモーション撮影、早く金を稼ぎたい女は急かせるがオーナーはだったら味見をさせろと言う卑しさの権化のような男、思わず引いてしまった。
しかも女は家族に隠すどころか撮影に妹同伴でくるのだからどういう家庭環境なのか気になるがそれらはスル―、こういう所が群像劇の短所なのでしょうか。
ウィーンのホテルでの初仕事の相手が英国のエリートビジネスマン、彼の妻も不倫、その不倫相手にも別の愛人が居て・・・と脈略無く話が流れてゆく、いろいろあって最後は振り出しのウィーンに戻るので環状、タイトルの360なのだろうか。
脚本のピーター・モーガンはアルトゥル・シュニッツラーの戯曲「輪舞」に着想を得たそうですが、「輪舞」は情事の連鎖反応、その余りに乱れた世界観に当局の検閲に合い出版も上演も禁止、解禁後も各方面から上演差し止め訴訟まで起きたいわくつきの戯曲ですから本作も似たり寄ったり。シュニッツラーは物語的な様式から逃れて戯画のような自由な表現形式を模索したとされている。要するに所作やセリフでの人物描写に重きを置き因果関係や物語性にはあまり拘らないと言う作風は本作にも受け継がれているようだがバラエティを盛り込むあまり、売春婦とか犯罪者とか通俗的なアイコンで済まされているようで人物描写としては物足りない。アンソニー・ホプキンスやジュード・ロウと言った名優を揃えたのだが余りにも役不足、勿体ないでしょう。
テーマは誰にでもある煩悩と理性や宗教観などとの葛藤なのだろう、子煩悩な良きパパでも下半身の人格は別、せっかく更生した性犯罪者を誘惑する下りや、イスラム教徒の歯医者が教理と恋愛感情の板挟みで悩む下りなどある種笑える、高尚なテーマを通俗的に描く狙いはわかるが余りにも下世話なエピソードばかりなので閉口しました。