「キャラクター頼り」名探偵コナン 紺青の拳(フィスト) 霊クラゲさんの映画レビュー(感想・評価)
キャラクター頼り
楽しむ努力はしたのですが無理でした。盛り上がっている内輪との温度差についていけない、と言うのが適切かつ簡潔な感想でしょうか。
ファンの方には申し訳ないのですが、うちに溜まった不満を吐き出させてください。
・観に行った経緯
映画純黒からコナンにハマりなおした者です。拳の予告にはあまり惹かれなかったのですが、好評のようなので期待を高めて観に行きました。
コナンの名作映画、近年話題になった純黒・執行人の物語構成は見事なもので、拳にも物語としての完成度や観ることで得られる教訓を期待して足を運ばれる方も多いと思います。
先に釘を刺しておくと、紺青の拳はアニメ映画の域を超えません(アニメ映画に失礼ですが)。恋愛モノというには恋愛が中心に置かれているわけではなく、バディまたは友情モノというには中途半端です。強いて言うなら仲間モノでしょう。恋人同士のキャラやゲストキャラがキャッキャウフフ(?)する映画なのです。
以下、犯人や内容の言及などネタバレが含まれます。
・序盤の長さ
コナンが攫われる際に現れる蘭さんにはドキッとしたのですが、シンガポールに着いてからキッドのレオンロー邸侵入までの脈が長すぎました。説明調にウンザリ、退屈なまま二時間か…と先を想像させられ中々の苦痛を味わえます。友人と鑑賞していなければ席を立っていたかもしれません。園子さんのわざとらしいぶりっ子も見ていて冷めるものがありました(これに関しては単に私が苦手なだけです)。
京極さん、レオンさん宅の像を壊していたけど結局物語には関係なかったな……。
・IQ400の天才?
言わずもがな怪盗キッドのことです。本作ではIQ400という設定が活かされておらず、聡明さがちっとも見えてきません。
レオンさんは新一=キッドを仮定していたからこそ指紋を取らせて待ち伏せたり秘書さんの罠を仕掛けるなど出来たのですが、対するキッドはまんまと罠にハマってしまいます。これにはガッカリです。地下で停まっていたエレベーターやら様々な面で観ている側は察せられるのにキッドはちっとも気づかない。「簡単すぎ…か?」と訝しげな様子を見せていたものの、せめて誰かが居ると勘付いたり警戒の素振りぐらいは見せてほしかったです。
いつも中森警部を相手にしていたから油断していたのでしょうか。相手が変わったのだから警戒や様子見、情報収集ぐらいしていてもおかしくないのに…。翻弄されっぱなしで大した活躍もない残念なキッドは見たくなかったです。
結局キッドの予告状は本人が出したものだったのでしょうか? 何かと謎が残っていてスッキリしません。
・暗示の解け方
中盤では京極さんがミサンガで力を封じられます。生真面目かつ思い込みが激しい京極さんだからこそ通じた作戦です。そのうち幸運のツボを買わされそうで心配になります。
ミサンガには「反則に近い強さを誇る京極さんの力を封じなければすぐに終わってしまう」という制作陣の考えがあるのですが、ミサンガが切れるシーンはもう少し捻れたんじゃないかと。
「君の力は何の為にある? 強さを追い求めて、その先に何がある? 君を駆り立てているものはいったいなんだ?」
レオンさんのこの問いかけは、本作で解決される問題だと勘違いさせます。うっかり期待してしまった私は、ハッキリとした答えを提示されなかったことに不満がありました。大切な人を守るためにあるのかもしれない。しかし京極さんは問いかけに関して一度も言及していません。
他者の介入によって何の脈絡もなく力を発揮したので、京極さんが何も考えていないように見えました。せっかくの京極さんメインなのですから、京極さんの内側にも焦点を当ててほしかったです。彼の意志が見えません。
・魅力のない犯人たち
序盤からバレバレな犯人です。それでいて、犯人を最初に見せてから探偵役がどう追い詰めるのかを見る倒叙形式のサスペンスでもありません。
序盤の『ムルソー』は、時間の空白がある作品だということ、レオンさんのキャラクター性を示すシーンですが、犯行が明確に描かれていないので倒叙形式とは言えず、レオンさんは犯人なのか、そうではないのか、悪い意味でモヤモヤさせられます(くどくどしい…)。1%ほど彼が犯人ではない可能性があるけど、99%は彼が犯人で実際彼が犯人だった、という流れは実に酷いものです。倒叙形式にした方がまだ意外性があったでしょう。
黒幕にしたって行動が一貫していません。復讐から突然金銭目的に飛んだ時は意味が分かりませんでした。海賊の仲間にするため? それっている? 海賊の暴走じゃダメなの? もう少し行動のワケにフォローを入れていれば魅力のない犯人にはならなかったのに……。前知識が無ければ推理しようのない犯行方法にもガッカリです。
・言わせたかっただけ
京園で盛り上がった後にシーンが飛んで「君は何者なんだい」「江戸川コナン、探偵さ」。この下りで一気に熱が引いてしまいました。いっそのこと省くか、もう少し前置きをしても良かったのでは。そもそもどうしてコナンは彼のもとに行ったの? アーサーヒライが江戸川コナンに戻る大切なシーンであるだけに、人選ミスすら感じます。
始終コナンに翻弄された頭のキレる犯人やコナンに救われた人物が言う台詞だと認識していたので、今回言う必要ある? というのが本音です。少なからず私は、コナンの正体を尋ねるに足る犯人ではなかったと思いました。(一対一ならまだしも複数対複数だったので)
せめて毛利探偵とコナンに違和感を抱いていた頭のキレるレオンさんが言っていればまだマシだったかもしれません。
・ノベライズ
一回目はそのつまらなさに愕然としたのですが、内輪で盛り上がっていただけに私のおつむが足りなかったのかも知れないとノベライズを読んで理解を高めてからもう一度映画館へ足を運びました。本作に物語性を期待したのが間違いだったようです。見方を変えたのもあって多少は楽しめました。
ノベライズ版では映画で省かれた台詞・描写がいくつか載っています。そのほとんどが内容を深く理解する助けとなるものです。京極さんの力を封じようとする前に、スタジアムを見下げて「強いな京極は」「一応手を打っておくか」と映画では描写されなかったシーンがあります。そこ省いちゃダメでしょう…と思わずジト目になりました。(もしかして私が見逃しただけ?)
・物語性よりキャラクター重視
この映画の楽しみ方は「蘭ちゃんと園子ちゃん可愛い!」もしくは「リシくん可愛い!」で間違いないでしょう。新一くん視点の蘭ちゃんがとても可愛いのは常識かもしれませんが…。リシくん(29さい)の容姿は糸目に褐色肌、人懐っこい性格も相まって、好きな人はとことん好きになれる青年です。
なんにせよキャラクターたちを楽しむ映画でした。
・感想
物語に意味を見出したい私としてはガッカリな映画となりました。
こんなことを言っては、コナン映画に意味を求めるのは筋違いだ、物語を作る大変さを知っていれば文句は出ないのに、との声も一定数上がるでしょうが、楽しみ方を理解した上で鑑賞しなければ「つまらない」作品であることには違いありません。
全体的に無駄が多い上に中途半端、時間が足りなかったのか場面がピョンピョンと飛んでいくので、来年の映画はもう少し丁重に描写されているといいなぁ…。