「見慣れたその道を踏み越える勇気はただ美しい」サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所 ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
見慣れたその道を踏み越える勇気はただ美しい
ポスタービジュアルに惹かれたのと、LGBTQの作品はできるだけ観たいと思って鑑賞。
最初に批判的な意見を言ってしまうと、ミュージカルとしては正直あんまりグッと来なくて、もう少し歌やダンスのシーンが多くても良かったかも。
ミュージカルともストレートプレイとも言えない微妙なバランスの印象。終わり方もちょっと唐突すぎたような…
ただコンテンポラリーダンスやヴォーグが多く、ダンサーの方々のキレはとても良くて格好良かった!
それから、邦題詐欺あるあるシリーズがまた増えてしまってる…原題の”Saturday Church”で良かったのではないか。
「ナイト」をつけたのはわかりやすさを狙ってるのだろうが、副題の夢を歌うというのはユリシーズの物語からすると?って感じ。
そもそも彼が望んでるのは歌うことではない。自分を解き放つとか、ほんとの自分を認めてほしいとか、その表れとしてラストシーンのランウェイがあるのだとしたら、なおさらしっくりこない。
でも、ユリシーズの心情表現の細やかさはとても良かった。花びらと信号の二つだけで殆どわかる。
冒頭では枝を揺すって無残に落ちる白い花。そこから、仲間たちに出会い、恋をして、本当の自分を掴んでゆくうちに花びらが色づいてゆく。
特に初めてキスをした後、床にカラフルな花びらが敷き詰められた階段を上っていくシーンが、さりげなくとも美しかった。
ホームレス収容所でのミュージカルシーンでもその花びらが静かに人生の新たな出発を応援しているよう。
また、最初に仲間たちに出会う時に、赤信号を無視して向こう岸に渡っていくシーンが印象的だった。
同じ横断歩道でも青信号なのに渡れない時も出てきていたし、見慣れたその道を踏み越えるという行為にどれだけの勇気が必要だったかと思いを馳せた。
その他にも「クローゼット」を開けてヒールを履くなんてとてもわかりやすい表現だったし、何より仲間となったお兄さんお姉さん方がみんな綺麗で、自分を貫いていて格好良かった。
もちろんみんな過去があって、沢山傷ついていて。それでも自分らしさを自ら手に入れようと歩みを止めなかったその力強さが、内面から滲み出ているようだった。
ラストシーンのユリシーズも、スタイルの良さや黒い肌にメイクやヒールが際立っていて、とても美しくて。
これからどんどん綺麗になってほしいと思った。その痛みはきっと自分をいつか支えてくれる。