「独善的父親の偏執愛」クワイエット・フォレスト kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
独善的父親の偏執愛
兄のマルコスはどこに行った?怪物に連れ去られた?といった葛藤を中心に思春期少年アルヘルの心の変化を描くダークファンタジーの世界。
タイトルに騙されがちだけど、『クワイエットプレイス』(2018)以前に作られている映画であることから、こうすれば売れると思い、日本で勝手に付けた邦題なのだろう。「inieblas」とは闇とか暗闇といった意味。メキシコにはティニエブラスという覆面レスラーもいるらしい。
山奥の森の中でひっそり暮らしているマルコス、アルヘル、ルチアーナの兄妹と父親。世界は荒廃しているのかいないのかわからないが世捨て人的な存在だ。ある日、長男マルコスと父親が狩猟に出かけた際、兄が“あいつ”(怪物)に連れ去られたと言い、父親だけが帰宅する。アルヘルは疑心暗鬼に陥り、自分で兄を探すことを決意。途中、アルヘルは飢えた髭老人と青年に遭遇し、彼らが闖入者としてアルヘルの小屋に現われるが、施しを与えるも豹変し、父親は髭老人を射殺・・・
青年が実は・・・といった段階で、アルヘルの性の目覚めが展開するのかと思えばそうでもない。終末的世界の中でも、マスク生活はもう必要なくなっていたのだろう。子どもたちを外に出したくなくて、咆哮のような音を創り出し“怪物”の存在を信じさせ、小屋に閉じ込めておいた父親のエゴ。マリオネット作家だと思われる彼にはそのくらい出来たに違いない。
作品全体に狼がメタファーとして、そして亡きマルコスの化身(?)として登場。アルヘルの夢に出てきた狼の死骸はマルコス。マスクが要らないと教えてくれたような狼もマルコス。そして地下に閉じ込めたはずの父親を助けたのもマルコス狼なのだと想像する。ってことは、多分誤射したか狼に襲われたマルコスが父親を赦したということ。最後に腹を抉られていた父親だったが、その赦しによってアルヘルと妹ルチアーナを抱きしめたのだろう。パンドラの箱のような夢は父親を赦すことのメタファー・・・などと色々想像できて面白い。