「駒になる人たち」ヘル・フロント 地獄の最前線 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
駒になる人たち
100年前の戦場、ボロくて空気の悪い泥まみれの最前線の塹壕に籠る兵士たちの数日間。
酒浸りのヒステリックな中間管理職大尉、慕われるおじさんに臆病者や陽気な食いしん坊な将校たち、そして途中入隊の若い少尉。
「戦争の駒」になる人たちそれぞれの細かいパーソナリティと人間模様のやり取りにグッとスポットを絞って寄せ当てられるので、揺れる彼らに合わせて自分の精神もグラついていた。
ストーリーの大半が人と人のやり取りになっていて派手なドンパチシーンはほぼ無し。
そのためか、少し挟まれる攻撃シーンの緊張と不安と緊迫感は半端ではなく、非常に苦しかった。
明らかな結果を間接的に見せてくる演出は逆により重くのしかかってくる。
理不尽な偵察作戦を突き付けられるスタンホープの苦渋。
常にイラついているように見える彼の慟哭は相当ショッキングだった。
作戦に向かう兵士たち一人一人に声を掛けて脚に触れる仕草がとても印象的。
仲の良かった恋人の弟、ラーリー少尉に向ける複雑な心境は容易に想像できる。あの時咄嗟にジミーと呼んでくれて良かった。
ついこの間高校生になりました、と言っても違和感のないほど幼く見えるラーリー少尉には若干の違和感があった。戦争や軍隊に全く詳しくないため、あんな若くて経験の乏しい人が階級を持てるのかと不思議に思う。
しかしあんなに薄暗い中でもエイサ・バターフィールドのブルーグレーの瞳は透き通っていて、とても綺麗だった。
戦争が仕事であり、理不尽な中で精一杯戦った結果のやるせなさに胸がえぐられる思いになった。
俯瞰のラストシーンで虚無感に襲われる。
いたって地味目でハラハラしたり面白く観るような作品ではないけど、それぞれの人物像がしっかり焼き付いてきて、感情に直接訴えてくる姿勢が好き。
文章にするとたった数行で終わる戦時の出来事にも、人格を持った沢山の人の思いや犠牲があることを改めて実感。
泥の地面を歩く足のアップのカットが頭に残った。
そして何の肉だったんだろう…。
イギリス人には馬を食べる文化はなく、人間と心を通わせることが出来る馬を食べるなんてとんでもない!という考えがありますよ。
他には当時鯨を食べたとかいう話も聞いたことはありますが、兵士のセリフから馬だったんだなと解釈しました。
どちらも日本人には衝撃はないですけど、日本だってもう少し前の時代なら四つ脚を食べるなんて!でしたからね。