「イデオロギーとともにRockも死んだ」LETO レト h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
イデオロギーとともにRockも死んだ
原体験ではないので、個人的な見解にすぎないが、ロックは社会に息苦しさを感じる若者の代弁と体制に抗うプロテストソングであったと思う。
それは西の文化とは遮断されていたが、東側にも伝染し、東側の盟主であるソビエト連邦でも若者の気持ちをとらえていく。
当時に比べて今は洋の東西を問わず、体制側の行動はより巧妙になり、直接間接問わず反体制的な動きをコントロールしている。お金も時間を選択肢も格段に増えていることもあり、若い世代には政治に関する関心も期待もない。
大音響でスリーコードをかき鳴らす音楽は倦厭され、chill outのような耳障りの良い音楽が好まれる。
Lenny Kravitzは95年の曲で「rock 'n' roll is dead」と叫んだが、90年に冷戦が終結し、イデオロギー闘争とともにロックも死んだのかもしれない。
本作では冷戦最後のデケイドの下、革命の地のレニングラードで若者たちがシャウトした姿を歴史の1ページとしてモノクロで描いている。ときおり、MVのようにイラストやカラーが入りオシャレでポップな場面が展開されるのも印象的だ。
個人的には、作品中の音楽のクオリティが映画の全体的なレベルを下げてしまっているように思ってしまった。彼らが敬愛するT.RexやLou Reedに及ぶべくものではなく、そもそも70年代で一時代前のアーティストばかり。Kinoの楽曲は60年代のフォークソングのようだ。
しかし、これは彼らのレベルが低いわけではなく、むしろ冷戦下の情報統制が厳しい時代で、よくこれだけ西欧のロック文化を彼らなりに昇華させたものだと驚くばかり。
ひとことでいうと、カッコいいロシア発のロックミュージカル映画。