「親も一人の人間なんだと気づく瞬間」アイ・キャン・オンリー・イマジン 明日へつなぐ歌 shironさんの映画レビュー(感想・評価)
親も一人の人間なんだと気づく瞬間
ふと、今まで気づかなかった事に気づく瞬間が、誰しもあると思います。
もしその“ふとした瞬間”が神の与えてくれた奇跡なのだとしたら…
見えない力を感じる瞬間の、感謝と愛と恐れと崇拝。
祈りが詰まったクリスチャンソングですが、クリスチャン以外にも響きます。
ラストの展開までドラマティック!
この歌が世に出る瞬間にも、こんな奇跡があったのか!
もちろん歌のシーンは圧巻です。
デニス・クエイドが素晴らしい。
最近だと『僕のワンダフルライフ』の後悔を抱えた孤独な主人公役が心に残っていますが、本作では更に厄介な人物を演じ切っています。
いわゆる毒親ですが、彼自身の苦しみも伝わります。
子供は親のものではない。
親は自分の人生経験から学んだ事を子供に伝えようとする。“転ばぬ先の杖”のつもりで。
そして時として、自分の叶わなかった夢を託したり、夢を見ることを諦めさせたりもする…。
もちろん、自分の中の憤りを子供にぶつけるのはもってのほかで、自分より弱い者を攻撃するのは卑怯でしかない。
でも…“親子”という関係があるだけで、プロフェッショナルな親なんて何処にもいない。
父親も一人の人間。自分の人生に苦しんで、周りが見えなくなっていたのだ…と思える演技でした。
そして、そんな父親を変えるきっかけは息子の歌にあった。
子供の頃に負った心の傷は、どれほど辛く苦しく人生にのしかかってくることか…。
以前、書くことがセラピーになると聞いた事があります。悩みを抱えた心の中の怒りや悲しみを吐露することでストレスが軽減し、更に書き進めることで心の整理がつくそうです。
(確かに私自身もレビューを書く事で頭の中が整理されるわww)
主人公は教会のキャンプで一冊のノートを渡されます。
更に、転機となる人との出会い。
仲間や先生、マネージャー。どれか一つでも欠けていたら、この歌は生まれなかった。
これらの出会いを奇跡と捉えるなら、そこにも神の御技を見ることになる。
自分の心を書き出すことがセラピーなら、絵を描くことや、踊ること、歌うことも、自分の内側を見つめてパーソナルな問題と向き合うセラピーだと思えます。
それらの表現が、他者に向かってベクトルを変えた時、今度は受け取る側の心のセラピーになる。
音楽の力を見せつけられる映画でした。