「音楽の歴史と共に歩む写真家」写真家ミック・ロック ロック・レジェンドの創造主 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
音楽の歴史と共に歩む写真家
筆者は洋の東西を問わずロックやポップソングには全くの門外漢だ。
そのため自然とこの手の映画は学ぶ姿勢で観ることになる。
もちろん音楽に関しての蘊蓄も一切語れない。
原題は『SHOT!』、まさに写真家の撮った写真、何のひねりもないそのままであるが、同時に簡潔で力強さもある。
どうも邦題は説明的になる傾向があるのかもしれない。
ミック・ロックの本名はマイケル・デヴィッド・ロックというご大層な名前であることが本作の中で明かされるが、たしかにロックシーンの大物を撮る写真家としてはミック・ロックの方がしっくりくる。
デヴィッド・ボウイやクィーン、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズやミック・ジャガー、ロッド・スチュアート、セックス・ピストルズなど、全く洋楽の世界を知らない筆者ですらわかる大物ミュージシャンの名前が出てくるのは助かった。
本作の上映中流れる音楽は恐らくは全て相当有名な曲に違いないだろうが、筆者の知識不足から全くわからない。
とはいえ、いろいろと音楽の旅を体験させられるようで聞いていて心地良かった。
個人的にはヒッピー文化を代表したかのようなミックの生き様に興味が湧いた。
LSDとヨガを同時進行していた往時のミックの生活態度はまさに我々が思い描くヒッピーの典型的なものに見える。
またアジアの宗教儀式ではマジックマッシュルームを使用して幻覚作用高めていたと聞くし、疲れを取るために耳の裏に大麻を塗りこむところもあるらしい。
かつてミックはニューヨークで売人を10人知っていたほどコカインに溺れていたこともあるようだが、さすがに死にかけて麻薬は全般的にやめたようだ。
インタビューの中で「カルマのレベル」などの言葉が出てくるし、今でも撮影前は必ず三点倒立をしていたりと、ヨガ的な精神性の方は続いているようだ。
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品の『上海特急』のマレーネ・ディートリッヒのポーズをクィーンのフレディ・マーキュリーに真似させた写真を撮っているというエピソードは興味深かった。
『上海特急』はディートリッヒ作品として『嘆きの天使』や『モロッコ』と並び評価される古典的名作映画なので興味があれば観ることをお薦めする。
この作品を機にロックを1から学び始めることはないが、映画を通して普段触れない世界を垣間見ることができた。
音楽知識に乏しいため本作の善し悪しはなかなか判断し難いが、麻薬で死にかけて搬送された病院のベッドの上のミックを眺める今のミックという構図はよくあるし、ドキュメンタリー映画作品として可もなく不可もなくであろう。
ミックの人生そのものが音楽史と重なる作品になっている。
ミック自身はミュージックビデオも監督しているということなので、もしかしたらその内彼の手になる長編監督作品を観られるかもしれない。