ウィンター・ウォーのレビュー・感想・評価
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これは日本では受けないのじゃないか
なぜ日本で公開しようとしたか疑問が残る作品。
というのも、この映画の根底にあるマルグレ=ヌーMalgre-Nousの悲劇についての知識が無いと、地べたを這いずり回るような冬の歩兵戦を延々見させられるだけになるからだ。
(今のウクライナではこんなことが起きてるんだと想像できて、それはそれで意味があるが)
戦争アクションとしては冬の歩兵戦なら「スターリングラード」(1993)等の佳作があるし、惨たらしい消耗戦を描いた作品は硫黄島シリーズや「ハクソー・リッジ」等、邦画洋画を問わず枚挙に暇がない。
なのになぜ今になってこんな地味ぃ~な歩兵戦の映画を作ったか。なぜならこれは戦争を題材にした映画ではないから。
戦争に関する部分は当時の状況を忠実になぞらえているだけ。なので非常に地味。
戦車や機甲師団は出て来ないし、ドイツ軍は機関銃と迫撃砲を使って来るのに味方はライフルと手榴弾だけ。アメリカ軍の補助があるが基本はフランス軍の武装のまま。
ノルマンディー上陸後の西部戦線の現実は確かにこんなものだったのだろう。
ちなみに、「アルザスのスターリングラード攻防戦」と映画の最後にちょろっと説明がはいるが、このコルマールを舞台とした攻防戦はかなりの規模の戦闘で、ドイツ軍の猛攻に一旦はストラスブールを放棄することを連合軍側が検討するくらいの激戦だった。映画上では数人がちまちま撃ち合うだけだが、全体で見るとかなりの規模。その規模感が映画には全く生かされていないのも、映画の意図を探るヒントになる。
マルグレ=ヌーは、第二次世界大戦でドイツ占領時にドイツ人として徴兵されたアルザス地方のフランス人を指す。マルグレとは「意に反して」という意味。ヌーは一人称複数形。つまり「意に反して徴兵された我ら」という意味になる。
この地方は昔からフランスとドイツの間で揺れ動いて、アイデンティティとしてはフランスなのだがドイツ語圏に近いのでドイツに併合されることが何度もあった。
第一次世界大戦の時にも同様に徴兵されたアルザスフランス人がいて、その彼らを後に「マルグレ=ウー」(ウーeuxは三人称複数形)、「意に反して徴兵された彼ら」と呼んだのが始まり。
それが繰り返され、「彼ら」に起きたことが今度は「我ら」に起きることになった。
主人公エナックが自分の出身地のアルザスに近付くにつれドイツ兵を撃たなくなるのは、その強制徴兵の歴史を知っていて、今回も自分と同郷の兵が敵にいるはずだとわかっているから。
そして過去の事例を知っているから、彼らはドイツフランスどちらからも「裏切り者」と見做されると知っていた。
(2010年に名誉回復されるまで、マルグレ=ヌーはコラボ、つまり対独協力者とされていた)
弟を捕虜にした後、逃がすか殺すかという話になったときに「逃がすものか」とエナックは激高したが、弟を逃がしてドイツ軍に合流させても、フランス側と内通したから解放されたと見做されれば処刑される。だから逃がすことは選択肢には無かった。
そもそも兄は愛国心から志願したが、弟は戦争そのものに反対の立場を貫いたことで村に残った。その弟がこの境遇になるということは相当な皮肉で悲劇だった。
同郷で、兄弟で、「良い人」のロドルフがなぜこんな目に合うのか。それこそがこの映画の主題だし、エナックもその悲劇を少しでも贖おうとする。
そしてロドルフは「良い人」であることを取り戻して死ぬ。
敵と味方、善と悪という二元論では表しきれない、一個人が体現する「生き方」がここにある。
戦争と一言で表せる現象は、この一個人の生き方が無数に折り重なって出来たものであることを忘れてはいけないと再確認させられる。
舞台となったコルマール(劇中ではドイツ語表記でKolmar、現在はフランス語表記でColmar)とイェプスハイムJebsheimの近辺に住んでいたことがあったので、地名としては懐かしかった。
が、フランスは田園風景がどこも同じなので、見覚えがあるようなないような。
自分としては非常に興味深い映画だったけど、多分自分以外にはさっぱりな映画なので星4で。
フランス北東部アルザス地方の住民のナチスによる徴兵による悲しい歴史を知った
ダビド・アブカヤ監督による2016年製作のフランス映画。
原題:Winter War
フランス北東部アルザス地方における冬の森林を舞台とした第二次世界大戦における独仏戦を描いている。故郷の森で部隊の仲間が次々と死んでいき、飢えと極寒の中極限状態にある曹長率いる部隊を描く。戦闘の最中、弟に出会うが、彼はナチスに徴集されたドイツ兵であった。その弟を捕虜として拘束していたが、ドイツ軍との闘いのなか、彼は負傷したフランス兵を助けようとして、ドイツ兵に撃たれて絶命してしまう。
ドイツ占領下のアルザス地方の数多くのフランス人(10万人ほどらしい)徴兵され、ソ連のみならずフランス軍との戦いにも動員されたことを初めて知った。ドイツ語圏であるアルザス地方の住民は、ゲルマン民族系であり全員親ドイツに変えられると考えられていたらしい。彼ら、マルグレ=ヌーの人達は戰後フランス人から差別され、最近になって再評価がなされたこちを映画は伝えていた。
米国戦争映画とは異なり、勇壮感や面白みには全く欠ける戦争映画であったが、戦争の惨さ・虚しさは良く表出されていた。
ドイツに蹂躙されたフランスという歴史がそうさせているのか、監督主演脚本等を一人で行っているダビド・アブカヤの個性なのかは、自分には判断出来ず。
製作ダビド・アブカヤ、脚本ダビド・アブカヤ、撮影ダビド・アブカヤ
編集ダビド・アブカヤ、音楽ダビド・アブカヤ
出演、ダビド・アブカヤ、マニュエル・ゴンサルベス、コルビス、ブリアン・メッシーナ、
アドリアン・コース。
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