「伝記映画と割り切って」静かなる情熱 エミリ・ディキンスン バリエさんの映画レビュー(感想・評価)
伝記映画と割り切って
アメリカのある犯罪ドラマの冒頭とエンディングで、古今東西の有名人の言葉や詩が引用されるんですが、そこでエミリ・ディキンソンの詩を初めて聞いたとき、詩に興味のない私の心にディキンソンの詩の言葉がグッと入ってきて自分でもびっくりしたのがエミリ・ディキンソンとの出会い。「こんな詩を書く人ってどんな人なんだろう?」と思っていたのだが、映画を見て、内面はこんなに激しい人だったのね、と認識を新たにした。
映画を見る前に、彼女の詩を何編かでも読むことをお勧めします。ディキンソンの予備知識なしに見ると、いつも家族で口論しあって意外にうるさい(笑)シーンが多くて、映画のエンタテインメント性だけを期待していくと裏切られると思う。
容姿に自信がなく異性から疎まれるのではないかという恐怖感、心を許した親友が先に結婚して離れていくときの喪失感や自分を愛してくれた伴侶や叔父叔母や両親に先立たれた時の心にぽっかり穴が空いて立ち上がれないほどの喪失感など人生の様々な喪失感は誰でも覚えがあるだろう。その自分の喪失経験を映画に重ねながら見ると、共感できるシーンが多々あるかと思う。
ディキンソンが生きた時代は、今みたいに様々な生き方ハウツー本なんてなかったわけだし、キリスト教のガチガチの教義に基づく信仰しか道しるべはなかった。そんな中で、彼女が信仰に対してあえて反抗的にふるまったのは、彼女の悩みが信仰だけでは解決できないことを知っていたからであり、ガチガチ教義の支配下にあるような生活の中で、信仰に頼らず自分の内面から力を引き出そうともがいた結果があの詩の数々だということを映画を見て認識した。
映画は、あくまで伝記映画と割り切って見る方が良いでしょう。
現代の照明を使わず、当時と同じロウソクやランプの光のみで撮影された(ように見える)映像の美しさ、衣装や室内インテリアなどは一見の価値ありかと思います。