劇場公開日 2017年4月29日

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「「捨てるものはない」という執着を捨てる」僕とカミンスキーの旅 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「捨てるものはない」という執着を捨てる

2017年8月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

レビューをながめた時点での印象はネガティブなもにだったが、見終えてみると実に余韻のいい映画だった。

かつてマティスやピカソと交流をもっていた盲目の画家カミンスキー(実際にそんな人物は存在しません)と、彼の伝記を書いて一発当ててやろうと目論む美術評論家セバスチャン。
ひと癖もふた癖もある人物が次から次へと登場してくるし、有名画家にインスパイヤされたコラージュのような映像や、突飛なセバスチャンの妄想などなど、北欧ぽいニヒルさと東欧ぽいシュールさを感じながら、コメディタッチのロードムービーなのかと観ていたが、二人が、かつての恋人テレーザに会いに向かう途中での達磨大師のエピソードを聞いたあたりから僕の印象が変わってきた。
断られ続けても弟子入りを乞う青年に、達磨大師が「捨てるものがないという執着を捨てろ」(大意)と諭す。
はっとした。
つまり、自分にはもう何もない、という考え自体がまだこだわりを持っている証拠なのだと。
たしかに、セバスチャンの彼女の家には、クロサワ映画のポスターや書の額が掛けられていたので、日本趣味であることは薄々気が付いていた。なるほど、禅の思想を問うているのか。その視線から見れば、この映画の奥深さが感じられるようになった。
テレーザとの再会は、期待した出会いではなかった。立ち去るその時、カミンスキーの胸にあった感情はなんだったろうか?画家として大成したカミンスキーの創作のエネルギーには、まちがいなくテレーザに対する想いがあったはずだ。その源であったテレーザの現状を知ってしまったことで、失望はあったと思う。だけど、盲目の老画家はその時、過去に執着していた自分を捨てることができたんじゃないかと思えた。

思い出せないが、たしか日本の映画かTVドラマで、チンピラ崩れの若造が資産家の老人を誘拐したものの、散々にその老人に振り回されて結局何も得られず、二人の友情だけが残ったみたいな、この映画によく似たものがあったようにぼんやりと思うのだが、さてそのタイトルはなんだったろう?
まあ、そんなことに執着するのはよしておくとするか。

栗太郎
ZIP PLEASEさんのコメント
2017年8月20日

大誘拐っすね

ZIP PLEASE