「型を破る柔軟さと、痛烈な批評性。芸術と芸術家について描くメタアートとしての価値も」僕とカミンスキーの旅 AuVisさんの映画レビュー(感想・評価)
型を破る柔軟さと、痛烈な批評性。芸術と芸術家について描くメタアートとしての価値も
芸術好きを自認するお上品な中高年の観客が、美術を題材にした心温まるロードムービーを期待して観賞すると、予想と違いすぎる展開に卒倒してしまいそう。“盲目の画家”がかつて時代の寵児だったというエピソードをはじめ、美術界をあざわらうかのような皮肉が満載。シニアライフを賛美する昨今の風潮に冷や水をあびせるように、老いの哀しさ、取り返せない青春といった残酷な現実も突きつける。
ジャンルの定石をなぞらない。ウェルメイドにしてたまるかという、ラディカルな気概が伝わってくる。美術に限らずアートの商業化が進むなか、型にはまる=大衆受けしやすい方へ創作がソフィスティケートされがちだが、芸術とは本来、既存の価値や常識を疑い、笑いのめし、新たな視点や独創を表現するもののはず。その意味で、本作は芸術のあり方や芸術家の生き方を扱いつつ、映画自体も芸術の本質に忠実であろうとする、メタアートとしての価値がある。
コメントする