「ひと昔前のセレブたちの変な話」胸騒ぎのシチリア kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
ひと昔前のセレブたちの変な話
『リゾート地でイチャイチャするセレブカップルを観たい』という謎の動機で鑑賞した本作。
シチリアの荒涼としていながらお洒落な雰囲気と、マリアンとポールのラブラブイチャイチャはなかなか良かったです。
登場人物たちはみな古い上流階級って雰囲気で、それも20世紀っぽくてノスタルジック。マリアンは明らかに80年代くらいのクラッシックロックスターですよね。40歳以下のファンはいなそう。
しかし…全体的に見ると、『何なんだこの映画⁈』という感想。
探り合うような関係性ばかりが終始描かれるため、登場人物のパーソナリティーがハリー以外イマイチよくわからない。まだマリアンはポールへの愛を貫くなど、芯の強さが伝わってきますが、その愛される対象であるポールはどんな人なのかちょっと捉えきれなかった。欲望ばかりが渦巻くこの作品の中で、マリアンとポールの関係だけが唯一地に足がついているので、ポールの描写不足は問題があると感じました。
ペンは…なんか書割みたいだな、という印象。だが、それが彼女の虚無とか寄る辺なさを浮き上がらせているのかもしれない。監督はそんな演出狙ってないとは思いますが。
ハリーの死から物語がハデになり、サスペンスっぽさが出てきますが、警察のズサンな捜査にゲンナリ。
容疑者にならずに逃げ切れて、ホッとするポールとマリアンというラストにも「マジか!それでいいのか⁈」と感じました。しかも罪を移民に押し付けるというヤバさ…この辺の無神経さは現代的です。このエンディングには目ん玉飛び出ますね。
ボロクソ言ってますが、この映画の良さはマリアンを演じるティルダ・スウィントンをはじめ、俳優が大変魅力的なところ。そこは楽しめました。また、風景をはじめ画がとても美しい。
正直、面白くもなんともない映画でしたが、ちょっとした佳作よりもこの作品の方が記憶に残る。映画において、映像の美しさは凄まじい説得力を持っているな、と改めて思った次第です。
そして主題歌がなんとストーンズのエモレス。エモレスですよ、エモレス!
ハリーがエモレスで踊ったり、3回くらいエモレスが流れるのも静かにマッドな感じです。でもこの映画、恐るべきことにエモレスが持っているのなんとも言えない奇怪な雰囲気にピッタリなんですよね。
ハリーがストーンズの共同プロデューサーだったり、エモレスのLPが重要な小道具として使われるなど、結構なストーンズ映画で、ストーンズファンとしてはちょっぴりニヤニヤ。
この映画の絶妙にダサいセレブ感(悪口ではないが、さほどポジティブな意味でもない)は、ミック・ジャガーのセンスと一部相通じるものがあるように感じます。
物語の中では、ハリーはストーンズのヴードゥー・ラウンジを共同プロデュースしたことになっている。その時のことを想像すると…ミックとは上手くやれただろうが、キース・リチャーズ大先生には『やかましい猿め、黙れ!』とか罵られていただろうね。
総括すると、豪華なバカ映画と言ったとこでしょうか。はっきり言って最低ランクの映画でしたが、とても印象に残る作品。
怪作でした。