「爽やかな物語だが、映画としての完成度は低い」きみの声をとどけたい uttiee56さんの映画レビュー(感想・評価)
爽やかな物語だが、映画としての完成度は低い
言霊が見える少女が巻き起こす、ひと夏の友情と奇跡の物語。
青木俊直氏による素朴で可愛らしいキャラクターが繰り広げる真っ直ぐな青春ストーリーに観客が感情移入することは容易であろう。こうなってほしいと観客が願う通りに物語が進行するにもかかわらず退屈に感じないのは、人物を丁寧に描写しているためであろう。
ラジオ少年の成れの果てとして、ミニFM局というキーワードに惹かれたのが本作を見た理由である。今どきの十代の若者にはミニFM局といっても何のことやらさっぱりわからないと思うが、そんな人達にもミニFM局とはどういうものか正確に伝わるように描写されていた。
3DCGで滑らかに動く無機物に比べて人物動画の枚数が少なく動きに違和感を感じる、主要キャラクターの声優がプロの水準に達していない、小動物に導かれて偶然ミニFM局のスタジオに入ってしまう強引な展開(なぜか鍵が開いている)、ごく普通の女子高生が初めて見るスタジオの機材をなぜか使えたり警察官並みの聞き込み能力を発揮したりといったご都合主義、そういった諸々を許容できるならば、この映画は素晴らしい夏の思い出となることだろう。
残念ながら私はそうしたところに違和感を感じて感情移入が妨げられたため、評価は厳し目にならざるを得ない。だが決して感動できなかったわけではなく、いい映画を見たなあという感想を持って映画館を出ることができた。
とはいえ、役者の演技と発声が未熟だったことは残念だったと言わざるを得ない。これを良しとしてしまっては、アニメ映画の役者は実写俳優ではなく専業声優を起用するべきであるという意見がまるで説得力を持たなくなるではないか。最近のアニメでは名前の付いた役を初めてもらった新人声優がずば抜けた演技力と発声技術を披露して視聴者の度肝を抜く事例が少なくないのに、声優などこの程度のものだと思われてはたまったものではない。
パンフレットによると、この映画は声優をプロデュースするプロジェクトの一環であり、声優の演技が未熟なのは演出意図通りということだが、 物語のオチがあのようなものであった以上、せめて最後の場面の滑舌だけでも良くなるように特訓してほしかった。