劇場公開日 2016年11月19日

「テム・レイの苛立ちこそが安彦さんの思い?」機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5テム・レイの苛立ちこそが安彦さんの思い?

2024年12月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

劇場での鑑賞なしに、配信でのレンタル視聴を選択。

過去のガンダム劇場版においても、イベント的側面には常に斜めに見つめていた少年だったので、大画面、高音質などにはこだわらず、今回も自宅でじっくりと鑑賞させていただきました。72時間は何度でも楽しめるしね。

さて、過去の安彦さんのインタビュー記事を読んだ限り、彼の中にある「落とし前」的な側面を常に意識して物語を綴って来られた様子がうかがえる。そこには、「彼が持っていないもの」に対する渇望と、「世間からの評価」に対するズレに苛立つ様子が、ほのかに漂っているのだ。

アニメから撤退して漫画専業になったいきさつも、再びガンダムを手掛けることになったいきさつも、それぞれに興味深い言葉で語ってあり、いちいち腑に落ちた。

何より、あれからより進化(深化)したクオリティの、アニメ以上のガンダムをコミックで鑑賞することが出来たのだ。雑誌を立ち上げ、じっくりと時間をかけて発表された本作は、おそらく日本では前例のない、アメコミ的なスタンスの商業的成功を収め、こうして映像化という一つの果実を得た。

賛否両論があることは、もちろん理解できる。

CGで描かれたモビルスーツ戦は、流麗で美彩。安彦メカとの親和性もまあ悪くないレベルではある。月面での戦闘は、過去に観たことのないワクワクする映像であった。何より、立体的に配置されたシャア、ランバ・ラル、三連星たちの感情の起伏と、ミノフスキー博士を見殺しにせざるを得ないテム・レイの複雑な心境が巧みに描かれている。並みの技量では、モビルスーツを誰が操っているのかを描き分けることすら能わないであろう。これは、ロボットアニメをやり続けてきた安彦さんの真骨頂だろう。

しかし、前作、『暁の蜂起』が、とても満足できる作品だったので、自分のなかの期待値がかなり上がっていた。その落差に、どうしても不満が持ち上がってきてしまうのだ。

それは、作品の対象年齢がシニア層を意識したものにならざるを得ないというジレンマに他ならない。ガンダムが社会現象になったあの時代に、夢中でかじりついて観た世代、いわゆる「ファースト世代」に向けて制作されたコミックの映像化であり、その価値観から一歩も飛び出していない。

次世代に向けてのガンダムサーガを期待しても、キシリアのアナクロなダンスだったり、池田秀一の老獪なシャアだったり、とても新しいファンの獲得に貢献しているようには思えない。今回、とうとう安彦さんが単独でコンテを切ったことにも皮肉を感じる。

2016年は劇場作品で『君の名は』『この世界の片隅で』という、奇跡の映画が続けて日本から生まれた。リブートという意味では、『シン・ゴジラ』も大きな成功を収めたと言っていい。

他ならぬ安彦さんが、かつて新海誠と雑誌で対談しており、彼の才能に驚嘆していたことが思い出される。

アニメから撤退した時に、宮崎駿への羨望と嫉妬を吐露し、ガンダムのコミカライズを始めた時に、富野由悠季への複雑な意識をちらつかせ、もがき苦しみながらガンダムを再構築したその功績が、いま大きな曲がり角をむかえている。

せめて、ルウム編『激突 ルウム会戦』が渾身の出来であることを期待する。
ユウキとファン・リーの悲劇こそが、ガンダムの本質であり、オリジンの白眉なのだから。

うそつきかもめ