「【”国家の主権は国民に在り!そして卵はいつか岩を越える。”今作は全斗煥軍事政権下に起きた韓国の赤狩り事件を基に、不当な国家権力に法で立ち向かった弁護士の姿を描いたポリティカル映画の逸品である。】」弁護人 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”国家の主権は国民に在り!そして卵はいつか岩を越える。”今作は全斗煥軍事政権下に起きた韓国の赤狩り事件を基に、不当な国家権力に法で立ち向かった弁護士の姿を描いたポリティカル映画の逸品である。】
ー 朴大統領、全斗煥大統領時代に、多くの軍事政権による光州事件を代表とする民主化運動弾圧事件が多数有った事は、周知の事実である。だが、韓国映画界は自国の恥部と言っても良い数々の事件を映画化して、その事実を自国民に再度知らしめている態度は、実に立派であると思っている。
直近であれば、全斗煥による12.12.クーデターを描いた「ソウルの春」が韓国で大ヒットした事は、記憶に新しい。ー
■1980年代初めの韓国・釜山。
高卒故に、苦学して弁護士になったソン・ウソク(ソン・ガンホ)は、薄利のために弁護士が手を出さなかった不動産登記をメインにした弁護士活動で、一躍有名弁護士になる。
そして、昔に苦学し、無銭飲食をした店に家族と共に行き、かつて世話になった食堂の女店主パク・スネ(キム・ヨンエ)に、お礼を言い抱きしめるのであった。
だが、ある日、彼女から息子・ジヌ(イム・シワン)を助けてほしいと頼まれる。ジヌは公安警察のデッチアゲによる赤狩り事件の犯人の一人として、2カ月間もの間拘留され、拷問を受けていたのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作の元になった事件が、実際に在った事件であり、それを告発するために制作された映画である。
主演のソン・ウソクを演じた韓国の名優ソン・ガンホ氏は、今作後、光州事件を描いた「タクシー運転手 約束は海を越えて」でも主演しているが、この名優は明らかに、出演する作品をキチンと選択しているのだろうと、思うのである。
・今作の前半は、高卒ゆえに苦労する若きソン・ウソクの姿が描かれる。超学歴社会の韓国では、一時期まで”ソウル大を出ないと、ロクな仕事に就けない。”と言われていた中で、立派だと思う。だが、それ故に彼の弁護士事務所は閑古鳥が鳴いている。
そこで、彼が目を付けた不動産登記をメインにした弁護士活動。そして、彼は財を成すのだが、この辺りまではコミカルに描かれる。
・だが、ジヌが公安警察、チャ・ドンヨン(クァク・ドゥオン)に”見せしめのための赤狩り”(北朝鮮の恐ろしさを、国民に知らしめる、秘密裏の国家施策。)により、捕らえられるシーンからの、誰も弁護を受けなかった事件の弁護をソン・ウソクが、受ける所からの、激烈な法廷シーンは、見応え充分である。観ていれば分かるが、この裁判は公安事件であり無罪は無く、量刑をどうするかの裁判なのだが、ソン・ウソクはあくまでも、ジヌ達の証言が拷問により引き出されたモノであり、それは国家権力の乱用であるが故の無罪である事を、立証しようとするのである。
・外国記者を招聘し、勇気ある手当てをした軍人の証言をソン・ウソクが引き出すシーンは、思わず応援するが、公安警察、チャ・ドンヨンもしたたかであり、彼が裁判所に来た事は認められていないとし、彼の証言が抹消されるシーンは、辛い。
■そして、数年後。はジヌ達と民主化を求めるデモに参加するが、拘束され裁判に掛けられる。
だが、その裁判には彼を指示する釜山の142名いる弁護士たちのうち、99名が出席するのである。このシーンで、裁判長が出席した弁護士の名前を次々に読んで行くシーンは沁みる。そして、ソン・ウソクは驚きの表情で背後にズラリと並んだ弁護士たちの顔を見るのである。
<今作は、全斗煥軍事政権下に起きた韓国の赤狩り事件を基に、不当な国家権力に法で立ち向かった弁護士の姿を描いたポリティカル映画の逸品なのである。そして、国家権力に憤る新聞記者を演じた名優イ・ソンミン(この方は、韓国ポリティカルムービーには欠かせません!)も含めて、韓国の名優多数出演作でもあるのである。>