「本音だけの社会はこうなる」ハイ・ライズ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
本音だけの社会はこうなる
だだっ広い土地にいくつかのマンションが建っている。ひとつのマンションはひとつの国家として描かれる。国家には階層があり、上の階ほど金持ちで権力がある。最上階に住むマンションの設計者が支配者だと思われているが、実際はそれほどの力はない。
停電をきっかけにパニックが起き、最初は下の階が被害を受けていたのがだんだん上階へと広がっていく。
死は日常的で性の倫理は忘れ去られる。結社があり、裏切りがあり、詐欺がある。反体制派がいて、権力による弾圧がある。変化を求める者と変化を受け入れられない者。どこまでも関わる者と傍観する者。
国家は常に矛盾を抱え、支配層も被支配層も本音を隠し続けることで、何とか体裁を保っている。しかしひとつのきっかけで各階級の本音が火山のように噴火する。映画は、いまの国家が薄氷の上に乗っていて、いつの日にかどうしようもなく崩壊してしまうだろうことを暗示している。そして共同体が崩壊した劣悪で理不尽な状況でもなお、人間は日常的に生きていくのだ。
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