「ドスン」牡蠣工場 saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)
ドスン
僕は想田作品が大好きで、演劇以外は全部見ている。
牡蠣工場は、あまり前評判が聞こえてこなくて、あまり良くないのか?と危惧していた。なので実際に劇場に確かめに行った。
想田作品といえば、何気ないシーンの羅列でも、全体を通して見ると、段々とテーマが見えてきて、深い所まで連れて行ってくれるという特徴があるが、今作はそこへ連れて行ってくれる様な重要なシーンが、特に前半は少なくて、結果全体を通してみたときに、比較的凡庸な作品になってしまったのかなと思った。
特に前半は、牡蠣の音とかは心地良かったけど、退屈だと感じる人も少なくないと思う。実際僕の隣に座ってたおばさんは寝てしまっていたくらいだ。
以前想田さんは、どんなものを撮っても面白くなるんだ、と言っていた。確かに今作も面白くなってはいるが、他の作品と比べると成功率は低めだと思う。
とはいえど、良いシーンは幾つもあった。
例えば女性が話しながら昼食を作るシーンや、海に落ちてしまった人を助けるシーンは見入ってしまったし、
撮影はシャットアウトだ、と言われるシーンではピリピリとした緊張感が伝わってきた。
特に、2人の中国人がやってきて、牡蠣の剥き方を教わる所なんかは、ダルデンヌ兄弟の作品を思わせる様な、素晴らしいシーンだった。共通の言語で会話が出来なくとも、コミュニケーションがとれたときの心地良さはとてもほっこりさせてくれた。
しかし、その翌日に実際に作業を始めると、やはり言語の壁が大きく、何も伝わらない。
中国人2人は一生懸命手伝おうとするのだが上手くいかず、呆然と師匠の作業を傍観するしかない。
このシーンで映画が終わる為、とても突き放したエグいラストになっている。
前日のホッコリからのこの挫折感は、
さすが想田さんだなと思う。
そういえば想田さんの作品は、結構突き放して終わるのが多い。
映画としては、あの先からが面白そうな気もするが、あの終わり方は悪くないと思う。
想田さんのインタビューを読むと、あの後に撮影をそろそろ終えてほしいと言われ、辞めざるを得なかったが、あそこで終わるのも悪くないと思った、と言っていた。
ドキュメンタリーならではだなと感じた。
インタビューを読むと、
『今、同じときに牛窓で撮った映像を、別の映画にするために編集中なんですけど、86歳の「ワイちゃん」という漁師の方がメインで、こっちはもっと単純に「海の男」の映画になるかもしれないです。編集中なのでまだわからないですけど。』
ということなので、そちらも必ず観察しようと思います。