「人間本位の価値観におけるハッピーエンド」ピートと秘密の友達 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
人間本位の価値観におけるハッピーエンド
森の中で生きる少年と、彼とともに生きるドラゴンの物語。少し既視感があると思うのは、同じ年に「ジャングル・ブック」が実写映画として公開されたからで、どちらもディズニー映画なのだから当然か。
ただこの「ピートと秘密の友達」に関しては、広大な森の中で生きる少年とドラゴン、というプロットから想像するよりも、圧倒的に少年とドラゴンが映像の中で窮屈そうにしている。それもそのはず、大方の物語は人間社会の中に置かれた少年とドラゴンの物語だからだ。ドラゴンはせっかく大きな翼をもっているにもかかわらず、その翼を広げるシーンはとても少ない。愚かしく浅ましい人間たちに捕われて縛られているシーンしか見られないのはなんとも口惜しい気分だ。少年にしてもそう。野性味あふれる躍動感あるシーンはさほど多くはない。視覚的な楽しみは半減し、このテーマの映画で見たかったものって、こういうことだったっけ?と首をかしげてしまった。
ストーリーは実に人間にとって都合よく作られていて、森の中で生きてきた少年とドラゴンたちの「彼ららしい生き方」というものをまるで否定したような内容。彼らが森の中で築いた生活や生命力には一切関知せず、ただ人間社会の中に突如現れた「異物」としてしか扱わない上に、その異物を人間社会に迎合させる物語にしか見えない。少年もドラゴンも、それまで安泰に暮らしていたはずの生活を捨て、少年は本来あるべき人間社会に戻り、ドラゴンは(人間にとって)安全な場所へ遠ざける(追いやると言い換えてもいい)ことでハッピーエンドとしている。もう主観が完全に人間に傾いたものになっている。温かい家庭に引き取られて少年はさぞ幸せだろう、と思うのはあくまでも人間の主観で見た結末で、少年自身の気持ちとしてどうだったか?はまったく考察されていないし、森を追い出されたドラゴンに対し「人間に捕われることなく生きられて幸せだろう」だなんて私は口が裂けても言わないし思わない。しかしこの映画は厚かましくも、人間の価値観における「ハッピーエンド」を少年とドラゴンに押し付けて満足気にしているかのようだ。
ドラゴンの造形にも不満がある。ふわふわと柔らかい毛が生えて、まるでぬいぐるみのような愛らしいそのドラゴンの姿も、人間が思い描く「可愛い生き物」の姿でしかない。人間が受け入れやすいように見た目を可愛く捏造している時点で、とても人間本位だと思えてならない。ドラゴンをあまりにも擬人化しすぎているのも気になる。表情・動作・考え方・・・すべて過度の擬人化がなされており、こんなに人間に都合のいい動き方をする野生の動物(架空の生物とは言え)がいるか?と思うほど(口を利かないことだけが救い)。
こんなに人間本位の物語を描いておいて、この映画の主題について考えると矛盾だらけで弱ってしまう。