ホース・マネーのレビュー・感想・評価
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山岸凉子の怪談かと思った
病院とおぼしき所に居る老人が思い出を語る。生まれ故郷の話や、出稼ぎ先で巻き込まれた事件など、思い出は時代と場所を行ったり来たりしながら進んでいく。
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観ながら、山岸凉子の怪談漫画みたいだなあと。死んだ人が自分が死んだと気付かずに思い入れのある場所と時代を彷徨うという(タイトル失念)。
冒頭、暗い洞穴みたいな所から出てくるのも、冥土から出てくるみたいだし。
夜の病院の食堂(?)でスープ呑むところなんて、ああ、病院にこういう幽霊出そうだね…と思うし。
老人を訪ねてくる人もいるんだが、何だか墓参りして墓に話しかけてる感じもするし。
もう、こりゃ、絶対幽霊でしょ、と感じてしまう。
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だが、しかし、これはかなり失礼な感想だ。
主人公のベントゥーラは、まだ死んでいないベントゥーラ本人が演じているのだもの。
「演じている」と言っていいのか。ベントゥーラ本人が、自分が体験した思い出を語っているだけだ。
大きな事件の話もあるが、それよりもささやかな、「あの時飛んでたのはツバメじゃない」とか、着ていたシャツの色とか、唄の歌詞とか、細々したことを延々と話しているだけだ。
それなのに、怪談のようなファンタジーのような異界に連れていかれる。
個のドキュメンタリーが寓話に昇華される、この浮遊感。
個の物語が普遍へと昇華したからこそ。老人ベントゥーラの生々しい記憶が、なんの縁もゆかりもない観客にもなだれこんでくる。知る由もなかった遠い異国の老人が、共感・共有といった生易しいレベルではなく身近な存在となる。
ペドロ・コスタの映像は、一体全体どんなマジックを使ったのか。不思議で不思議でならない。
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追記:他の方も書いておられるが、不思議な映画だけどもベントゥーラに愛着が湧く。シンプルにただそれだけで充分なのかもしれんねとも思う。
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