「甘い蜜にはボロがある」後妻業の女 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
甘い蜜にはボロがある
ある中年女と結婚した金持ち老人たちが次々と死亡。
女は、男を騙しては遺産を我が物にする“後妻業の女”だった…!
似たような事件がまだ記憶に新しい気もするけど、原作小説は事件の起こる前に出版されたとか。
偶然とは言え、それを知るとただでは笑えない…いや、やっぱり笑える。
今年6月に公開された「日本で一番悪い奴ら」同様、シリアスにやったらそれはそれは重くて後味悪い作品になってた筈。
ブラック・コメディ仕立てはただエンタメ作品として見易いだけじゃなく、男と女の安っぽい愛、金、欲など卑しい人間模様をチクチク突っ付くのに最適。
滑稽が、一番皮肉たっぷり。
何と言っても、豪華実力派たちによる掛け合い!
これだけでも一見の価値あり!
しおらしさの化けの皮を被った後妻業・小夜子の腹黒さ。さながら大竹しのぶショー!
負けないくらいの豊川悦司演じる結婚相談所所長の胡散臭さも絶品!
二人を徹底的に調べる探偵。真っ当な人物かと思いきや、毒には毒を。永瀬正敏が見事。
六平直政、伊武雅刀、津川雅彦、笑福亭鶴瓶…小夜子の“獲物”たち。中でも、鶴瓶師匠が一癖あり。
比較的若いキャストの中では、遺族の気の強い次女、尾野真千子。大竹しのぶとの取っ組み合いシーンは強烈!
どうも映画では精彩に欠けていた鶴橋康夫監督だが、会心の一作!
このキャスティングや題材から新藤兼人はたまた今村昌平風だなぁと思っていたのだが、これを機にその路線で攻めていっては!?
小夜子の周りで夫が次々と死んでいく。
普通に考えなくても怪しい。
小夜子と裏でプロデュースする結婚相談所長の一連の共犯は、法を盾にしているから鉄壁のように見えて、実際は叩けば幾らでもボロが出る安直なもの。
周りも皆、金や欲で盲目になっていただけ。
小夜子は確かに怪物みたいな女。でも、本当に欲しいものには手が届かない。直接的ではないにせよ、ちょいちょいの描写で哀しさを滲ませる。
キレ者に見えて、危うくなると金で解決しようとしたり、性欲に走る所長も実は小心者。
騙された男たちも、何故小夜子にコロッと引っ掛かったのか。(今風に言えば“欲求を抑えられなかった”って事なんだろうけど(笑))
人間って可笑しい。
男と女の関係って可笑しい。
人間って哀れ。
男と女の関係って哀れ。
笑えるから余計に身に染みる。
オチもまさしくそう。
人によっては中途半端に感じるかもしれないが、個人的には気に入った。
散々悪事を働いた二人の末路なんて、いちいち説明しなくても分かる。
TVドラマや漫画の映画化、アニメなどに埋もれてなかなかヒット作が生まれない“大人向けの良質作”。
初夏には「64」がヒットしたが、そちらよりずっと面白かった!
(何かのバラエティー番組で、主演女優の元夫が「怖くて見れへん」と言ってたのがウケた)