「Have you seen the little piggies crawling in the dirt? ブタくんがイジメられる理由はそっちじゃないほうがいい気がするのだが…。」ダム・キーパー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Have you seen the little piggies crawling in the dirt? ブタくんがイジメられる理由はそっちじゃないほうがいい気がするのだが…。
「ダム・キーパー」という役目を担ういじめられっ子のブタの少年と、転校生であるキツネの少年との出会いが引き起こすとある事件を描くファンタジー・ショートアニメーション。
日本語吹き替えナレーションを務めるのは『ウォーターボーイズ』シリーズや『悪人』の、レジェンド俳優・柄本明。
陰気なナレーションからこの映画の幕は上がる。
クレヨンで書かれたような陽気で可愛らしいアニメーションなのだが、いじめ描写はかなり胸糞。明るいルックとは対照的に、物語は常に暗い影に覆われている。
「ダム・キーパー」という、暗闇から街を守る仕事とは一種の暗喩なのだと思う。
不条理な現実に、心を閉ざしてしまいたくなることもある。しかしそれに立ち向かわなくてはならないことをこのアニメは説いている。まるでイソップ童話のように教訓たっぷりである。
ブタくんとキツネくんの心温まる友情にはホロっとするところもあるが、全体的にはあまり乗れず…。
問題点はクライマックスが弱いことだと思う。
ブタくんが風車を回さなかったことにより、暗闇が街を覆う。この闇は空を舞う蝶々が死ぬほどの毒気を含んでいるのだが、その絶望感、恐怖感の描き込みが弱い。そこを強く強調してこそ、それに立ち向かうブタくんの命をかけた覚悟がより活きてくると思うのだが…。そりゃあんまりディザスターを描き過ぎると全然別の映画になっちゃうんだろうけどさ。それならそれで良いじゃん。
あと、ブタくんが虐められている理由。
普通なら街を守っている「ダム・キーパー」は尊敬の対象になるのでは?おそらく、長い間暗闇による被害が出ていないことで町の住人は「ダム・キーパー」のありがたみを忘れている、といった感じの設定なんだろうが、そこがあまり伝わらない。
ブタくんが虐められている理由はなんなのだろう?
あの世界では、ブタは差別される存在なのだろうか?他の動物は豚っ鼻の物真似で弄っていたし🐽
「ダム・キーパー」の仕事により、ブタくんはいつもススで汚れているわけだから、「こいつ汚ねー!」みたいな虐められ方を強調した方がドラマ的には良かったと思う。
職業差別という問題を提示しつつ、汚れてしまう仕事こそ人々の役に立っているんだ!みたいなメッセージも込められるしね。
美しいアニメーションであることには間違いないが、物語的なカタルシスの無さと、ブタくんの描写にあまり納得がいかないということで、少し辛めの点数です。