貌斬り KAOKIRI 戯曲「スタニスラフスキー探偵団」よりのレビュー・感想・評価
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愛すべき俗物
とは、上映後のトークショーで監督が仰った言葉だ。
作品の中には、そんな連中で溢れてた。
凄い惹きこまれた。
バカみたいだけど、今は動いちゃいけないと映画を見ながら思ったのは初めてだ。
既にフィルムに焼き付けられた過去の時間軸に飲み込まれ、役者の息に合わせて息をしてたような…それほどに魅入ってた。
それは、何故か…?
スクリーンの中に舞台が移植されてたからだ。
小劇場の圧縮された空間にこもった熱が長い長い1カットとして活かされてた。
しかもアップカットが多用されてる。
そのアップカットもライブの芝居中のものであったりもする。
それもそのはず、引き絵のカットには黒子に扮したカメラマンが舞台の上に存在しているのだ。
その存在を払拭しようと役者は足掻くのか、尋常じゃないテンションで舞台は進む。
結果、妙な相乗効果でも生んでしまったのか…息を吐く隙すらない程の密度が生まれてた。
舞台の映画化は数々あれど、ここまでの臨場感を映画館に持ち込んだ作品を初めて観た。
トークショーで監督は「豪腕監督」と称されていた。
何でも登れないような山をいとも容易く登っていくからだそうな。
これは、かなり的確だと思う。
誰もなし得なかった事、いや、出来るとも思わなかった事だろうか?もしくは誰もが諦めてた事…それを今回、やってのけた。
そして、この作品を牽引した草野康太という狂気にあてられる。
彼の中に巣食う魔物をもっと観てみたいと思う。
おそらくなら舞台は舞台で完結している。
観客はその先があるなどと毛ほども思わなかったに違いない。
だが、今回の作品には、舞台の裏で起こっている事件が描かれてた。
その先があるのだ。違う結末がある。
この監督はとてつもない知能犯なのだ!
あの舞台でさえ虚構とし、映画を「実」と構築するための材料へと切り捨てた。
何という、観客への裏切りだろうか!
もとい!
何という大胆な伏線なのだろうか!
見応えしかなかった作品だった。
…変な話し、逃げられないのだ。
CGにも吹き替えにも。
役者は100%自分を頼るしかない。
その緊迫感をヒシヒシと感じた時間だった。
映画館で観れて良かった。
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