「書くことで孤独を強める作家のジレンマ」ヴィオレット ある作家の肖像 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
書くことで孤独を強める作家のジレンマ
第二次世界大戦末期、フランスの田舎町に作家のモーリス・サックスとひっそりと隠れ住んでいたヴィオレット・ルデュック(エマニュエル・ドゥヴォス)。
ゲイであることで迫害されていたモーリスとは偽装の夫婦関係を続け、生活はヴィオレットが闇商売をすることで支えている。
私生児として生まれ、自分の容姿にコンプレックスを抱き、男女どちらにも性的欲求を抱くヴィオレットは、自分自身を嫌悪していた。
モーリスは、そんな彼女に、自分のことを書け、と自らの出来事を小説にすることを薦めるのであった・・・というところから映画は始まる。
その後、モーリスは彼女のもとを去り、戦後、完成した小説を持ってパリに出たヴィオレットは、作家で編集者のボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)と出逢い、それまで書いていた小説を『窒息』として出版することになる。
映画は、ヴィオレットが係わった男性や土地の場所を小見出しにした「章立て」の形式をとっていて、それぞれがぶっきら棒といっていいほど説明もなく始まるので、はじめの2章ほどは物語の背景や人物設定などがわかりづらく、内容を理解するのが難しい。
しかしながら、それらの舞台背景がわかってくると、俄然興味深く観られるようになりました。
処女作『窒息』はカミュやサルトルなどの大物作家に絶賛されれるものの、女性によるその赤裸々な心情吐露は大衆には受け容れられず、ヴィオレットは劣等感に疎外感に苛まれていく。
ここいらの描写は、ひりひりするほど痛々しい。
大物実業家のジャック・ゲラン(オリヴィエ・グルメ)や作家のジャン・ジュネなどの賛同者が増えれば増えるほどほど疎外感は増してしまう。
この複雑な感情をエマニュエル・ドゥヴォスが見事に表現していて、この映画のいちばんの見どころ。
マルタン・プロヴォ監督がみせる画面は暗いシーンが多く、ときには何が映っているのか判別が出来ないほどだが、それが故に、終盤、ヴィオレットが見つける安息の地・南仏プロヴァンスの小村が明るくまばゆく輝いて見える。