愛しのゴースト : 特集
絶叫、爆笑──最後は感涙の新感覚ムービー
これが、映画ファンにすすめたい次の“隠れた秀作”だ!
「きっと、うまくいく」「宇宙人ポール」「キャビン」「チョコレートドーナツ」など、ミニシアター系作品を中心として“隠れた秀作”が、映画ファンをぐっと引きつけている。本国タイで「アナと雪の女王」を抑え歴代No.1ヒットを記録した「愛しのゴースト」(10月18日公開)もまた、そんな作品群に連なる新たなおすすめ作品だ。
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■映画ファン注目──次の“めっけもの”は、コレ!
「愛しのゴースト」を映画ファンにすすめたい理由とは?
ハリウッド超大作や、有名監督の作品だけが映画じゃない。時おり、まったく思いもかけないところから、映画ファンの心を強烈に引きつける作品が現われる。そんな隠れた秀作、次なる“めっけもの”が、「愛しのゴースト」なのだ。
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アイデアや企画が斬新だったり、新しい才能が登場したり、これまでなじみのなかった地域からの作品だったりと、隠れた秀作にはいくつかのパターンがあるが、共通するのは「観客に新たな驚き」を提供していることだ。シネコンで大規模上映される作品がヒットの中心を占めているのは相変わらずだが、近年また、小規模公開作やミニシアター展開の作品から、こうした秀作のヒットが生まれる傾向が出てきた。古くは「ニュー・シネマ・パラダイス」、近年だと「きっと、うまくいく」などの作品名を聞けば、「あの映画か!」と膝を打つ映画ファンも多いだろう。そんな作品群に連なる新たな1本として、「愛しのゴースト」は注目なのだ。
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
“新感覚”──「愛しのゴースト」をシンプルに説明すれば、まさにこのひと言に尽きるだろう。怪談をベースにしたホラー風味と、それを笑いで語ろうとするコメディ風味、そして愛し合う男女の美しい愛を描くラブ・ロマンス風味が渾然一体となって、ギャーと叫んだかと思えば、ワハハと大いに笑い、そして最後はウルウルと涙を流してしまうのだ。エキゾチックで素朴な山村を舞台にしているということもあり、この感覚は我々が知らなかった新たなるエンターテインメントだ。
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日本でも観客動員1000万人突破、興収250億円超えと大ヒットしている「アナと雪の女王」だが、この全世界ヒット作を抑えて、本国タイでは歴代興収No.1を記録しているのが驚きだ。実に、国民の10人にひとりが本作を鑑賞している計算になる。もちろん、同国でポピュラーな物語が原案になっている有利さはあるかもしれないが、それだけでヒットするほど映画は甘くはない。誰の心にも届く、驚きと感動が詰まっている作品力の証明だ。
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
驚かせて笑わせるというのが本作の大きな特徴だが、根底に流れる大きなテーマは、「どんな困難があっても、愛する人を愛し続けられるのか?」ということだ。愛する人とずっと一緒にいたい、でもその相手がもし人間ではなくなっていたら? この“究極の愛”への問いかけは万国共通。世界中の誰にとっても、どの年代にとっても変わらない普遍的なテーマだ。見ている者はいつしか自分を重ね合わせ、グイグイ物語へと引き込まれていく。
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4人の仲間たちとともに、地獄のような戦場から帰還した青年マークは、最愛の妻ナークと念願の再会を果たす。しかし村には、身重だったナークはすでに死んでおり、幽霊となって村にとどまっているという不気味なうさわが流れていた。命の恩人であるマークをなんとかナークから引き離したい仲間の4人は、あの手この手で救出を試みるが、ナークの呪いにおびえて慌てふためくだけ。妻を深く愛するマークはうさわを信じずにいたが、やがて4人の間で、本当に死んでいるのは自分たちではないかという疑惑が湧きおこる……。果てして、本当の幽霊はいったい誰なのか?
■「したコメ映画祭」プロデューサー・いとうせいこうも本作をレコメンド!
そして監督が語る「なぜ本作がこんなにも多くの人々の心に響いたのか?」
9月14日、本作が「第7回したまちコメディ映画祭in台東」にて特別招待作品として上映された。同映画祭の総合プロデューサーを務めた、いとうせいこうと、上映に合わせて来日したバンジョン・ピサンタナクーン監督の対談が都内にて開催。「愛しのゴースト」の魅力、そしてヒットの秘密を語り合った。(取材・文・写真/山崎佐保子)
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
本作にほれ込んだといういとうプロデューサーは、「典型的なロマンスであり、ホラーであり、コメディであり。エネルギッシュでサービス精神にあふれた映画! 監督はどんな映画が好きなのですか?」とピサンタナクーン監督の創作活動の原点に興味津々。ピサンタナクーン監督は、「風刺の効いたインテリなコメディが好きですね。『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ミザリー』、日本だと北野武監督や三谷幸喜監督が好き」と嗜好を明かした。
いとうは、「タイ語じゃないと通じないはずのジョークも何故かおかしさが伝わってくる。日本の東北にも悲惨な怪談を面白おかしくしたものがあるけれど、涙ではなく一緒に笑うことで“死者を送る”というのは、日本人の感覚としてわかる気がします」と共感を示す。
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子どもの頃からホラー映画ファンだというピサンタナクーン監督だが、「大人になってコメディやラブ・ロマンスが好きになった。本作も表面的にはホラーだけど、コメディとラブ・ロマンスの要素の方が強い。最近はドラマ性や感情に重きを置くようになったんです」と心境の変化を語る。
いとうも「ホラーとコメディが一体化したニュー・ジャンル」と評する通り、監督は「女性の視点を男性の視点にしたり、ファッションや言葉も現代風にしたり。これまでの映画化とは全く違うものにしたかった」と斬新なアプローチに挑戦。一方で、「この怪談をラブ・コメディにすることは、伝説をひっくり返すことなのでもちろんリスクも高かった。観客が2人の愛を受け入れられるようセリフを何度も練り直した。最終的には観客がラブ・ストーリーの部分に強く共感できたことが、大ヒットに繋がったのだと思います」と分析する。
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いとうは、「タイ映画というと『トム・ヤム・クン!』などアクションのイメージが強いけど、こういうアジア的な幽霊譚(たん)も面白い。共感もできながら違いも楽しめる、ジャンル感を壊してくれる風通しの良い作品。今後も映画祭でプッシュしていきたい監督ですね」と大きな期待を寄せた。