「怒濤のリアリスト」SCUM スカム 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
怒濤のリアリスト
映画の真ん中にドーンと暴力が鎮座している。
暴力の起因や解決法は描かれない。
そこにある暴力を、ただ描くのみである。
監督のアラン・クラーク、
本作『Scum』では、暴力が蔓延する少年院、
『Made in Britain』(1982,TV作品)では、犯罪を繰返す若者、
『The Firm』(1989,TV作品)では、暴走するフーリガン、
など各作品ごとに社会問題を取り上げてきた。
既存のドラマにありがちな「共感」や「教訓」を排除し、ただ現状を写す。
作品内で中途半端な解決法を示して観客を安心させたりしない。明日も明後日も続く問題だからだ。
彼の腹の据わったリアリストぶりに目眩がする。
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そして、彼が素晴らしいのは、「難しい社会問題を取り上げているから」だけではなく、その撮り方の面白さ、スリリングさにもあると思う。構図・テンポが素晴らしい(個人的には本作より撮り直す前の1977年版Scumの方が好きだが…)。
手持ちカメラを多用し、暴力を振るう男の背中を追う。
『Scum』のビリヤード〜洗面所のシークエンスは緊張感に満ち見事。
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アラン・クラーク独特の構成・演出が極まったのが『Elephant』(1989年、製作はダニー・ボイル)だと思う。北アイルランド紛争をモチーフにした作品だが、
セリフなし・音楽なし・ストーリーなし。
狙撃者と被害者を、繰返し、ただ単に写していく。
ドキュメンタリー風でありながら、硬質でスピーディーな演出。
観る側は、あらがう術もなくその映像に引き込まれていく。
この『Elephant』に触発され、ガス・ヴァン・サントは2003年『エレファント』(コロンバイン高校銃乱射事件がテーマ。カンヌでパルム・ドール受賞)を作った。
ガス・ヴァン・サントだけでなく、ポール・グリーングラスの『ブラディ・サンデー』(北アイルランド紛争をドキュメンタリータッチで撮ったもの)なども、アラン・クラークから影響を受けているのではないかと個人的に思う。
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アラン・クラーク、没年1990年。
『Scum』から『Elephant』まで一貫した視点を持ちつつその演出法を進化させてきたこと、そして彼が後世に与えた影響を考えると、その早すぎる死が惜しまれてならない。
もっと彼の作品が観たかった。
2014年10月、『Scum(1979年版)』が日本で劇場初公開とのこと。今までDVD等で観るしかなかったので、嬉しい。
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追記:クラーク作品の『Made in Britain』のティム・ロス、『The Firm』のゲイリー・オールドマンは、本気で素晴らしい。