「こどものころのピュアなこころを思った。」ぼくを探しに gatoさんの映画レビュー(感想・評価)
こどものころのピュアなこころを思った。
愛情いっぱいで、幸せを感じつつも、なにやら切ない気持ちになりました。
ハーブティーとマドレーヌを食べたあとの口のなかで苦味と甘味が打ち消しあいながら混じってとけてゆくような、いい話だけど切ないし、切ないけどいい話、という具合にどちらとも言いがたい気持ちが残るのです。
主人公は甘いものにめがなく、買ってきたお菓子を他人に食べられると不機嫌になったりする。そんな彼にひょんなことから苦味を強要する(ちょっと語弊があるな。)マダム・プルーストが現れて、、、となってゆくわけです。
ハーブティーとマドレーヌが主人公をやさしく過去へとみちびいてゆきます。この回想を通して、こどものころ怖い怖いと目にかぶせたフィルターがとりのぞかれてゆきます。
黒歴史もこの映画みたいにゆっくりのぞいてゆけば肯定的な一面を発見し、痛々しい記憶を緩和してみれるかもしれません。
主人公の表情がとてもいいのです。笑ったときの顔なんて、あっ、笑った!ってまるで親戚の赤ちゃんが笑ったみたいにうれしくなってしまうのです。いい顔ですね。
あかちゃんはほとんど顔がうつらず声で感情を表現するのに対し、現在の主人公が声を出さず、顔の表情(と筆記)でのみ表現するのと対称的でした。あかちゃんのシーンである回想シーンが概ね主人公の目線からのショットととしているのが映像的におもしろかった。
フランスの文化に精通していたらたくさんのメタファーに気がつくにちがいありません。フランス語を勉強してもう一度見てみたい作品です。
失った記憶と声を探しに。。。過去へ過去へと。紅茶に加えたお砂糖になったかのよう。
やさしさに包まれた106分のタイムトラベルでした。
◎余談
アメリやイリュージョニストの~などと言われて見に行くと、思ったよりアニメーション少ないな、という印象を受けましたが、主人公の親代わりの姉妹の伯母たちや盲目の調律師といった高齢の登場人物たちのキャラクターや音楽から、なるほどショメ監督だなと感じられました。さくらんぼ漬けを食べているところなんかわかりやすいシーンだと思います。
思えば、主人公以外の登場人物のほとんどがおじいさんおばあさん。彼らがまわりでがやがややってるわけです。自由奔放で時に見ているこちら側も戸惑いを覚えることもありますが、やはり愛らしく魅力的で、思わずくすっと笑ってしまいます。
映画のなかに入って探険できたらどんなに楽しいのだろうと夢想するほど、とっても魅力的な世界観なんですね。マダム・プルーストの野菜畑アパートがすてき。どうやってつくったんだろ。まねしたい。