「あまりに無知で痛過ぎる」トランセンデンス アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
あまりに無知で痛過ぎる
また地雷を踏んでしまった感じがする。_| ̄|○ 人格を丸ごとコンピュータに移行できたら,という非常に想像力をくすぐられる話なのだが,この脚本家にはこの設定の本当の面白さが全く分からなかったようだし,科学的素養にも相当欠けているようだったのが残念でならなかった。
例えば,最初に出て来るエピソードで,世の中は電磁波だらけだから聖域を作ると言って,銅線で作られたネットを庭の上に張るシーンがあるのだが,電磁波遮蔽のためと言うにはネットの目が粗過ぎるし,上方ばかりでなく側面にも張って全体を接地しなければ全く意味がないのにそうしなかったので,いきなり先行きが心配になってしまった。更に後の展開で,地下で同じことをやろうとしていたのには思わず吹き出した。地下空間はそもそもアースで囲まれているようなものなのだから,地下に入ると携帯の繋がりが悪くなることなど,我々も日常的に経験していることであり,地下に届くはずもない電磁波の遮蔽など,夜に日傘をさすようなもので全く無意味なのである。
字幕にも気になるところが多々あり,"neural network technology (神経回路網技術)" と喋っているのに「神経工学」という字幕になっていたのには目が点になった。そんな工学分野は聞いたことがない。こういうことをやらかすのは,また戸田奈津子かと思ったが,違ったようだった。:-D
さて,コンピュータに人間一人分の全人格や全記憶を仮に移せたとして,一体どれくらいの容量になるのだろう?アナログ量をディジタル化するのだから,解像度次第でいくらでも大きくなってしまうだろうが,いくら圧縮したとしてもその転送には何ヶ月か,あるいは何年もの時間がかかるはずである。それがネットに繋いで1分もかからずに送られてしまうような描写があったのにもドン引きさせられた。こうした点を助言してくれる技術的なアドバイザはいなかったのだろうか?
コンピュータ化された後の話は,情報の世界で展開されるのかと思えば,やたら新素材を生み出して物質世界で活動しようとするのにも首を傾げざるを得なかった。ナノテクノロジー(これもかなり誤解に満ちていたが)で植物の成長が促進されるシーンなど,トトロでも見ているかのような既視感があった。(V)o¥o(V) そもそも,1秒間に1京回もの演算を行う現代のスパコンより遥かに進んでいるはずのコンピュータが,人間と音声で会話している時点で違和感があった。コンピュータは,さぞかし待ち時間ばかりで退屈だったはずである。
主演がジョニー・デップというキャスティングにも惹かれたのだが,モニタに終始不機嫌そうな表情で映っているだけの役なので,ジョニデである必要は一切感じられなかった。そもそも,全人格を移せたのであれば表情も豊かであるはずなのに,ほとんど変化がなかったのは,最初から監督がコンピュータの人格というのはこういうものだと決めつけていたせいに違いない。逆に,ジョニデは良くこんな無表情な役をやってのけたと言うべきかもしれない。
最後にどんな見せ場があるかと思ったのだが,特殊メイクを少しずつ変化させただけでお終いというのにも脱力させられた。頭が悪いアメリカ人が身の程も知らずにドヤ顔で作ったトンデモ SF 映画とでも言えばいいだろうか。アメリカでも興行的には成功していないらしいので,多くのアメリカ人はこの脚本家や監督よりは頭がいいらしい。何よりなことである。:-p
(映像3+脚本2+役者3+音楽3+演出2)× 4 = 52 点。