「観察眼の鋭さ」たまこラブストーリー 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
観察眼の鋭さ
山田尚子監督のオリジナル作品なので、「きみの色」の公開もあるし、テレビシリーズも含めて改めて見直していた。軽やかにすごいことをやっている作品だなと改めて思った。もち蔵がたまこに告白するシーン。カメラは望遠でかなり遠くから見つめているショットもすごいが、やっぱり、たまこが川に落ちた時、スカートに空気がはいっていて膨らんでいるところにカメラを向けるセンスがすごい。予想外の突然の告白に驚き、困惑して表情が固まったたまこのどの部分に一番本当の感情が出ているのか、この時は空気で膨らんだスカートだと考えたわけだ。確かに、突然の告白で困惑が表情の前面に出ているが、その実嬉しくないわけじゃない、フワフワした感情があの時のたまこにあったはず。それを空気が入り込んだスカートに見つける山田監督の観察眼の鋭さ。このシーンだけでもお金払って何度でも観たくなる。実際、そのスカートに一度わざわざ1カット使って寄りの絵を入れている。この一瞬のインサートはどうして必要なのか、確かにでも空気で膨らんだスカートには多幸感が詰まっていそうな気がする。こういうフレーミングの見事さが全編で際立っていて、何度見ても面白い。映画作家としての並外れたセンスを感じる。
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