「この兄弟の絆と宿命が苦しいけれど、それでいて心に温かさが残る」ランナウェイ・ブルース Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
この兄弟の絆と宿命が苦しいけれど、それでいて心に温かさが残る
「ランナウェイ・ブルース」と言う邦題は原題の「THE MOTEL LIFE」より「何となく、逃避行を試みる誰かが主人公のストーリーなのか~」とこの映画のテイストをイメージし易くなる名前でとても正解だと言う気がした。
映画を観終わった後は、何だかとても切なく、やるせない思いにもさせられる作品だった。
だが、結果としては、逃亡者達=悪人の虚しく、悲壮感だけが、胸に残るだけの厳しい作品でも決してなかった。
その事は、唯一私には大きな救いになっている。
人間が人として真っ当に生きる為には希望が必要不可欠の存在だと日頃から考えている自分にとって映画の中の人物の人生に希望が見出せないのは辛いからだ。
私は、日頃から映画とはやはり自分の人生の一部である時間を映画観賞に当てるのだから、
その代償として感動を期待しているのだ。
自己の人生その物である時間と言う最も貴重な物を映画に捧げて観ている以上、作品には、必ず、観る前の自分と観た後の自分自身との間に何かの変化を起こす力を持つ作品が、やはり映画としての観る価値の有る存在と言う事だし、素晴らしい作品の一つの条件でも有ると信じている。
そんな意味に於いても、本作は、主人公であるこの男2人の兄弟は犯罪者で有る事で、普通は、私の思う良い映画と言う一括りの評価の枠を外れた作品だ。
だから、当然余り感情移入出来ない部類に属する人物の物語だ。
だが、それでいて矛盾するのだが、私自身は、この兄弟に対してとても親近感を感じずにはいられないのだ。
生きる事の辛さと言うか、本人の努力だけではどうにもならない宿命の壁の前に無力感に苛まれ、宿命の力に翻弄され、人生の舵取りを自己の満足いく形に出来ない人間の深い哀しみが画面に映し出されていて、鑑賞中に凄く共感を憶えたのだ。
特にこれからご覧になられる方もいるだろうから、内様には絶対触れる事は出来ないけれど、正にブルースなのだ。ブルース一色に塗り潰された、男の作品だった。
障害を持った兄弟が堅い絆で生きようと必死にもがいて、もがいて尚も先を見詰め続けようとした彼らの生き様には、ため息だけが、深く心を揺さぶり続けた。
ローマ国際映画祭で観客賞・脚本賞・編集賞そして批評家賞に輝いたと言うのも納得の作品だと思う。
俳優陣も言われてみれば、あの映画にも、この作品にもと良作に出演キャリアを持つ確かな演技派、バイプレイヤーなのだ。地味で目立たない作品だが、こう言う作品を自宅で一人静かに観て過ごすのもまた趣があるものだ。派手な大作に観飽きた時こそ、こんな作品を観ると映画の素晴らしさの虜になってしまうよな~