メアリーと秘密の王国のレビュー・感想・評価
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なぜヒットしなかったのか「文明衝突警報」
世界観、キャラクターの魅力、音楽、幻想的な映像美、どれをとっても素晴らしい出来栄えで、非の打ちどころのないアニメーション作品です。
しいて言うなら小さな人間(リーフマン)たちが、人間のサイズをそのまま小さくしただけの能力で、演じる俳優の力量に大きく影響されるキャスティングだったことぐらいでしょうか。オリジナルの作品では、コリン・ファレル、アマンダ・セイフライド、ビヨンセ・ノウルズ、スティーブン・タイラーなど、ハリウッドスターたちが共演しており、歌唱シーンも含め豪華な演出になっていますが、日本語吹き替え版では立木文彦さんが熱唱するシーンに力が入っている程度で、あとは、ベテランの声優さんが堅実な吹き替えを披露しているのみです。
近年のアニメーション作品における、日本語吹き替え専用主題歌のねじ込みや、お笑いタレントの起用と宣伝活動の兼任、特殊字幕(看板や手紙の内容まで日本語に書き換える)その他有名タレントの声優投入など、一切やっていないことが、映画会社の日本語版製作に予算が付かなかったことを物語ります。
スタジオの出世作『アイスエイジ』も続編の公開規模は縮小されていきました。同時期に公開され順調に発展を遂げた『モンスターズ・インク』とは対照的な印象を受け、尻すぼみ感はぬぐえません。
話題性に欠ける内容、ストーリー展開もどこかで見たような既視感のあるもので、目新しさははっきり言ってありません。ただ、子供と一緒に見るとしたら、安心して見ていられる映画です。一つ一つの要素はどれをとっても素晴らしい出来だったのに、これといったひきつけるものが足りなかった残念な映画でした。映画自体には、このような感想を抱いたのですが、個人的には大いに考えさせられたことがひとつあります。
以下は、見終わってからの感想ですので、ネタバレを含みます。十分に注意をして下さい。
気になったこととは、主役の女の子メアリーの父親の生業(なりわい)についてです。『ゴーストバスターズ』『シン・ゴジラ』等、誰も信じていない研究に打ち込むあまりに社会性を失い、実は正しいことをしているのに、世間の評価を受けられない科学者などが登場する映画がありますが、この映画の終着点ハッピーエンディングがあるとするならば、「森の精霊や神秘に触れ、人間の文明とは隔絶された見えないものをつきとめ、その危機を救う」ことです。
偶然にも科学者の娘が巻きこまれ、一見、家族の理解と、より深い研究に邁進していく未来を、あたかも幸せが訪れたかのように描いてありますが、はたしてそれでいいんでしょうか。
私には社会不適合者が二人に増えただけにしか思えませんでした。
彼ら父と娘に残された道は、収入も保証されないままに、森を守っていくこと。もし、広く世間にリーフマンたちの存在を公表すれば、自分の研究は注目され、天と地がひっくり返るような革命的な発見として、後世まで語り継がれるでしょうが、それは森の滅亡を意味します。その点『アバター』によく似たテーマを扱っているのですが、すでに存在する世界に溶け込んでいくという使命に隠された侵略行為を、主人公の葛藤を以て真正面からとらえた『アバター』に対して、この映画では、共存が出来ても何も生まれない。故に侵略行為が成り立たない。森に越してきた科学者と、先住の森の民に共感が生まれ、人間社会からはますます孤立していくことが想像できるからです。
理想を追求するあまり、自らの立場をなくすような研究を、続ける意義があるでしょうか。娘に理解が得られた時点で、いい辞め時だったと思うのです。それ以上進むと、どうしたって、彼らのような「森の人」に自分もなるしかありません。ましてや、娘まで巻き込むなんて。いい父親とは言えないでしょう。
あくまで想像ですが、この世界を突き進んでいくと、娘に森の人との子供ができ、それらを人間から守るという「正解」を誘導しているようにしか思えませんでした。それが個人的には幸せなことだと思えなかったのです。だから内容とは別に、星一つ分減らさせていただきました。ー★
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