劇場公開日 2013年5月11日

「ただただ圧倒さる」鳳鳴(フォンミン) 中国の記憶 LaStradaさんの映画レビュー(感想・評価)

ただただ圧倒さる

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 凄い映画を観てしまった!

 1950年代後半からの反右派闘争・文革時代に故なく「右派」のレッテルを貼られての悲惨な経験を一人の老女が3時間にわたって語るだけのドキュメンタリーです。登場人物は彼女一人で、カメラは全く動かず3時間正面から映すだけと言う剛直な造りなのに、有り体に言えば無茶苦茶面白いのです。彼女の言葉に淀みがないだけでなく、語りも起伏に富み、中国語のリズムも軽快で、まるで名人の講談を聞く様。何なんだ、このばあちゃん?

 当時の写真や映像などを一切挿入せず、彼女の語りに全幅の信頼を寄せている事が本作の力強さを生み出しています。例えば、話の途中で彼女は、「ちょっとトイレに」と言って席を立ちます。普通ならばそこでカメラを一旦止めますよね。或いは、編集時に彼女が戻って来てから場面を続けます。ところが、本作では彼女が戻って来るまでカメラは無人のソファーを延々と映し続けるのです。すると、それを観ている僕は、「え、それで続きはどうなるのよ?」と焦れ始めてしまいます。語られている内容は悲惨なのに、他人の不幸をエンタメとして消費しているかの様な自分の物見高さに気付いてドギマギするのでした。恐らく監督は観客のそこまでの反応を計算してこの様に撮影・編集したのでしょう。

 この気持ちを僕は一体どこに持って行けばいいのでしょう? ワン・ビン凄ぇな。

La Strada