セリーナ 炎の女のレビュー・感想・評価
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無駄が多く、要点が抜け落ちた、あらゆる点でチグハグな失敗作
ジェニファー・ローレンスにブラッドリー・クーパーという人気俳優を再共演させておきながら、本国ですらお蔵入りになりかけたこの作品だが、お蔵入りしなかっただけラッキーだった、と言わざるをえないほどの酷い出来。オスカーも受賞したスザンネ・ビア監督はこの映画で何をしたかったんだか。そしてなぜこの映画にローレンスとクーパーを呼びつけたか・・・。
製材業を営むクーパー扮する夫ジョージと、そこに嫁いだ妻セリーナ。この夫婦を通して描かれるドラマなのだが、そもそもこの映画が何をどう描きたいドラマなのか、まったく定まってこない。妻には12歳の時に火災に遭い家族を全員失って孤独になってしまったという過去があり、夫は夫で、弱みを握られた仕事のパートナーを殺害(事故として処理された)したという真相がある。それ以外にも、公園の設立というジョージの仕事を奪うような計画が進んでいたり、ギャロウェイの大怪我だとか、次から次へと様々な出来事が起きるのだけれど、それらが何の効果も生まないまま、後のストーリーともまるで呼応しないまま流されて行ってしまうから弱ってしまう。設定からストーリーから人物描写から、さらには1929年という時代背景まで含めて、何から何までチグハグでまったくかち合わない。ギャロウェイの怪我はかろうじてセリーナがそれを応急処置したことで恩義を感じてその後のセリーナの行動の実行犯になるという展開につながるものがあるものの、セリーナの火災の記憶やら、ジョージによるブキャナンの殺害やら、公園設立話やら、鷹やら、その瞬間ではハッとさせられる展開も、あとになると「結局あの話は何の意味があったの?」に変わってしまう。
けれども一番ひどいのはセリーナの人物描写ではないだろうか。冒頭では小股の切れ上がった女性として登場し、林を守るために鷹を輸入して手懐けるという荒業と事業家としての才覚を見せるものの、妊娠し流産してからは、さっきまでの威勢のよさはどこに行ってしまったの?というくらいにすっかり抜け殻人間に。そして最後には夫の子供の写真を見つけてすっかり取り乱してしまうという変わりよう。それを人間の心の変化として受け入れられないほどストーリーが酷いので、セリーナがただただ感情の起伏が激しくて常軌を逸したイタい女に成り下がるだけだ。そういう女の性を描いたなんて志の高さは感じられず、ただつまらない女を見させられているだけとしか感じられない。こういうのを女の多面性と呼ぶことはできない。ただすべてがチグハグなだけだ。強い女だったはずのセリーナが流産を経て心を壊し「危険な情事」ばりの怖い女に変わってしまうというストーリーにするならそれもよし。ただそれをやるには余計な設定が多すぎる代わりに、セリーナの内面を映すシーンが少なすぎる。グレン・クローズほどの鬼気迫るものも感じない。ジェニファー・ローレンスの存在感をもってしても、セリーナはただのつまらないメンヘラ(良くない言葉だがあえて使おう)でしかない。格好つけて登場した割に、なんとまぁダサい女だろうか。
全体的に、長編ハーレクイン小説か、あるいは長期シリーズもののソープオペラを、無理やり2時間に縮めたような突拍子もなさで溢れている。そのため、説明が足りない無駄な設定がどんどん煩くなってくる。ラストでブラッドリー・クーパーが死んで終わりというのも、まとまり切らないストーリーにどうにか無理やりオチをつけたかのよう。客観的にこの映画を見て、主人公となるべきはセリーナではない。ジョージが妊娠させ、未婚の母にさせられた挙句、セリーナに殺害されかけたレイチェルこそがヒロインとしてもっともふさわしく、レイチェルを主人公にしたサスペンス・スリラーなら面白かったのではないかと思う。
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