ローラのレビュー・感想・評価
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落ちるは簡単、上るは難し
戦後、急速に復興していった西ドイツ。生活は豊かになってもさまざまな問題を背後に抱えていました。
旧ナチス党員への責任追及がなされないことや、家父長制、女性の地位の低さ、倫理観の欠如など、戦前からの価値観や権力構造が色濃く残っていたのです。
主人公フォン・ボームは誠実で理想主義的な官僚として登場しました。
精神的に腐敗した世界に現れた救世主、のように見えて、「何かやってくれるのでは…」と期待が高まります。
売春婦ローラを救い出すのか、汚職を暴くのか、という感じ。
しかし気持ちいいほど見事に裏切られました(笑)
ローラという魅惑的な女性との出会いによって、次第にその信念は揺らぎ、変化していきます。
彼は彼女の背後にある腐敗の構造を知りながらも、欲望と情に抗えず、いつしか体制の中へと自らを組み込んでいってしまうのです。
フォン・ボームの変容は、まるで社会の濁流に飲み込まれていく個人の姿を象徴しているかのようでした。
ロマンスの形式を通じて、人間がいかにして快楽や安易な選択に流され、体制に取り込まれていくかが、残酷に描かれていました。
理想を掲げていたはずのフォン・ボームもまた、人間の本性「快楽」に抗うことができず、結局は周囲と同じように腐敗に順応してしまいます。
ローラはただの女性ではなく、経済的繁栄とそれに伴う道徳の退廃、欲望の象徴でした。
フォン・ボームに売春婦であることが露見したときの狂いっぷりは凄まじく、女の業の深さを感じました。羞恥というよりも怒りですね…怖い。
彼女に惹かれるということは、ある意味、時代そのものに屈することでもあったのでしょうか。
フォン・ボームの最初の誠実さはどこへやら、です。
ローラと結ばれ、幸せだと語るフォン・ボームを見ているこちらの虚無感といったらありません。彼女は元の男シュッカートとも関係が切れてはいないのです。
人間も社会も良くなろうとすると難しいものですが、落ちるのは簡単です。人の心理にも引力ってあるんでしょうか。水は低い方へ流れるとも言いますからね。
フォン・ボームの幸福顔でバッサリ終わるキレの良さには参りました。
ファスビンダーの批判精神恐るべし、でございました。
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