「たわいない動機の犯行をロボットの高性能さを利用して遂行する展開が愉快てす。」素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
たわいない動機の犯行をロボットの高性能さを利用して遂行する展開が愉快てす。
老人と介護ロボットという今までにない組み合わせ。しかも、主人公のフランクは、元宝石泥棒であり、健康のためなら違法行為もいとわないロボットを相棒にしたことで、なんとまんまと宝石泥棒をコンビで成し遂げてしまうという、奇想天外なヒューマンストーリーです。フランクと病床の元妻との交情をもっと掘り下げてくれたら、感動が深まったと思うものの、ロボットとの人間とのあり得ない友情を成立させた脚本は秀逸。そして、たわいない動機の犯行をロボットの高性能さを利用して遂行する展開が愉快てす。ただラストでフランクが警察から逃亡するシーンから、駆け足になって雑になるのは残念なところ。それでも ハリウッドの近未来ロボット映画らしからぬたそがれた雰囲気がいいし、人間味あふれるドラマに思わずしみじみされることでしょう。。
舞台は、近未来のニューヨーク州コールド・スプリングスという小さな田舎町。
元宝石泥棒のフランクは、人里離れた森の中の家でひとり暮らしをしています。妻とは30年前に離婚し、子供たちふたりは成長して独立していたのです。
70歳を超えたフランクは、物忘れがひどくなる一方でした。そんな父親を忌み嫌う長男のハンターは、余計なめんどうをかけたくないと、一方的にフランクの世話をする介護用ロボットを押しつけて帰って行ったのでした。でも内心は、妹のマディソンと一人暮らしの父親を心配しての押しつけだったのです。
しかし、フランクは息子への反発もあって、介護ロボットを気に入りません。高齢のフランクは大抵のテクノロジーに不快感を示すのでした。だから当然、異質なものに思えるロボットの存在はうっとうしく、不安を掻き立てるだけだったのです。
でも、このロボットは、自在に歩けるばかりか、会話も流暢で、態度は親切。次第にフランクの孤独な心を捉えていきます。なんといっても、息子みたいに嫌みな反論はせず、いつも心地よい回答が戻ってきて、フランクの心を和ませたのでした。
もちろん介護としての腕前も一流。部屋の片づけから、料理、ガーデニングまで、ありとあらゆることをしてくれる高性能さでした。フランクの健康を改善するようにプログラムされているために、フランクに規則正しい生活を送るように指導し、美味しそうな健康食を用意するのです。おかげで、フランクの体調は日々改善していきます。
身体の調子が良くなるにつれ、フランクの気持ちも前向きになっていきました。ロボットは、雇い主の健康を改善させるだけでなく、やる気を活発にさせ、趣味や生きがいを見つけるようプログラムされているから。
フランクは、ロボットの作る料理を好きになり、散歩にも一緒に出かけるようになります。ちょっとした野心がひらめいたフランクは、日々の生活に活力を見出すための自分の趣味にロボットも巻き込むことをひらめくのです。眼をつけたのが、フランクの生きがいである泥棒の技術。それを早速ロボットに仕込むとすぐに身につけてしまうのでした。
そしてここに、新しい強盗デュオが誕生するのです。
そんな時、町の図書館が改築されて、書籍が完全電子化されることに。フランクの楽しみは、町の図書館で司書をしているジェニファーと他愛ないおしゃべりをして、本を借り出すことでした。ジェニファーから、紙の本が全て撤去されることを聞かされたフランクは、泥棒としての闘士に火がつきます。ターゲットは、図書館所蔵の『ドン・キホーテ』初版本。これを盗むことは、かねてから生意気な奴とと嫌っていた、図書館のコンサルタントであるジェイクの鼻をあかしてやることにもなったのです。でも、とあるパーティで、身につけた装飾を見せびらかすジェイク夫妻にカチンときたフランクは、ジェイク邸に泥棒に入ることを決意します。
緻密な計画を精査するロボットの忠犬ぶりに笑えました。法律に違反することは行わないようにプログラムされているロボットでしたが、従わないと健康に害することをやるぞと雇い主に脅されて渋々犯行に荷担してしまうのです。こんなに素直な介護ロボットなら、誰でも欲しくなるでしょうね。
フランクの痴呆症という設定も秀逸です。緻密な犯行計画を用意したのに、犯罪を犯したことを逃亡中に忘れてしまい、刑事が待ち受ける自宅にノコノコ戻って逮捕されてしまうフランク。でも健常時にちゃんと手を打ってあって、盗んだ宝石がちゃんと元妻に渡るように仕組んでおいたドンデン返しは、鮮やかな手口でした。ジェニファーとの隠された関係がねたばれされるところも驚かされます。
そのラストの見せ場の芝居を支えたのがフランク役のフランク・ランジェラの認知症がどこまで進んでいるのかわからない微妙な演技。あれには観客一同、すっかり騙されてしまうのですね。とぼけた味のある演技で、ラストを盛り上げてくれました。