「イスラム教徒とヒンドゥー教徒」マイネーム・イズ・ハーン kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
イスラム教徒とヒンドゥー教徒
同じインド人であっても、ハーンはイスラム教徒、マンディラはヒンドゥー教徒と信仰を異にしていたが、二人は宗教の差を越えて結婚にこぎ着ける。だがその矢先、9.11テロが発生。
映画は2007年から始まる。空港で不審者として取り調べを受けたハーン。自閉症カードも所持してる彼は、最終便に乗れなかったがバスでワシントンへ行くと言う。大統領にメッセージを伝えるという目的のために・・・
物語は彼の幼少の頃から。頭は良いがしゃべることが難しい。それでも機械修理技術を発揮したりして、母から可愛がられる。弟ザキームも優秀だがこちらは健常人。アメリカに渡ったのも、母親が兄リズワンばかりを可愛がったからだ。そして弟を頼ってリズワンも渡米。そんな彼にいきなり化粧品のセールスをまかせるなんて、ちょっと無謀。初めての場所、初対面の人、そして黄色いものが怖い。そしていきなり「marry me」と求婚するリズワン。まだ見たことのない場所に連れてって!という難問をクリアして、今度は彼女のほうから・・・幸せいっぱいの結婚。そしてマンディラは独立して自分の美容室を開店する。イスラムとヒンドゥの違いから、弟は猛反対。弟の妻ハシーナが祝福に来てたから問題なかったとは思うが・・・そんな幸せいっぱいの新婚生活も9.11のせいで一変する。
イスラムに対する偏見と差別。繁盛していた美容室に白人の客が来なくなった。サミールも学校では白い目で見られたりもしたが、たいしたことはなかった。しかし、友人のリースの父親がアフガニスタンで死んだことにより、リースがサミールに口をきいてくれなくなり、それが元で上級生にいじめられ脾臓破裂により死亡したサミール。マンディラは店の名前をハーンにしたことで客が来なくなったこと、息子が死んだのもハーンのせいにして、彼を追い出してしまう。「大統領にマイネーム・イズ・ハーン、テロリストではない」と言ったら戻ってきてもいいと言い残して・・・そこからリズワン・ハーンの無鉄砲な旅が始まったのだ。
特技を生かし、「何でも直します」というプラカードを持って小銭を稼ぎ、大統領が出席する場所を訪れる。ことごとく失敗。中でもアフリカ支援パーティにて、キリスト教徒じゃないから出席できなかったが、500ドルをポーンと寄付するところがかっこよかった。9.11直後でもイスラムの習慣で収入の2.5%をどこかに寄付するシーンがあったが、事件の直後だけに周りから鬱陶しがられるのだ。ジョージア州のウィルミナを訪れたとき、世話になったママジェニーとともに教会のイラク戦没者追悼集会に参加したハーン。黒人ばかりが酪農で暮らす小さな町だったが、人種も宗教も問わない、いい人たちばかり。彼と同じく、人種・宗教が違うからといって差別なんてしない町だ。
やがて、大学での講演会に大統領が出席すると知り、群衆に紛れて「My name is Khan.I'm not a terrorist」と叫ぶが、テロという言葉がSPたちの耳に聴こえ、そのためハーンは逮捕されてしまう。一部始終を目撃していた大学のジャーナリストが彼を取材しようと思い、様々な手段を使って、ついに彼を報道することになった。無実が証明されず拘束を解かれないままのハーンに対して、わずかながらも支援者の団体ができたほど。やがて、あるモスクで危険発言をしていた男たちをFBIに通報したことがわかり、彼は釈放されることになった。
彼のその後を追うジャーナリスト。大統領に会えるまではマンディラの元へ戻れないと決心しているハーンは、途中、ハリケーンがウィルミナを直撃して大洪水の被害に遭ってることを知り、救助にかけつけたのだ。そこへもジャーナリストたちがやってきて、テレビ放映されることになり、ハーンはますます有名人になってゆく。TVを見た人たち、弟夫妻も現地にかけつけ復興のための活動を続ける。そしてマンディラもやってきた。ところが逮捕された逆恨みによってハーンは刺されてしまうのだ・・・
残り3日しかない。3日で大統領がブッシュからオバマに変わってしまう・・・病床でうなされるハーン。マンディラも息子を殺した学生が判明し、心にしこりがなくなっていた。そして、報道陣の力も借りて大統領の演説へ・・・
母親から言われていた「世の中には2種類の人間しかいない。良い人と悪い人」が常に彼の思考と行動を支配していて、決めつけはよくないのだが、それによって彼の対人関係が気付かれてゆく。だから、人種はもちろん、宗教の違いなんてハーンには関係ないのだ。自分は祈りを捧げないと不安でしょうがなくなるが、すべての人にとって神は同じであると思っている。そして愛と慈悲が自然に出てくるのだ。彼がアスペルガー症候群であるため、心を伝えるのは苦手だが、嫌いなものは嫌いとはっきり口にすることが逆に上手く人間関係を構築できることもある(かなり笑えるところでもあるが)。
最後にはオバマに会うことでひとくぎりついた。満足そう。オバマが上院議員のときに報道されるハーンの映像を見ていたため、彼の決め台詞を取ってしまい、しどろもどろになってしまったハーン。それでも、最初の空港職員の名前と“howdy”を伝えたところが偉い!全体的にイスラムへの差別、イジメなんてのはかなりおとなしい。アメリカにも気遣ってるんだろうけど、この優しさが映画全体を包んでいる。まぁ、サミールは死んじゃったけど・・・